2010.02.20 書評

ジャズは帝王マイルスから

文: 中山 康樹 (音楽評論家)

『マイルスvsコルトレーン』 (中山康樹 著)

  ジャズに興味はあるが、どこから聴けばいいのかわからない。そんな声をしばしば耳にする。何から聴けばいいか、教えてほしい。そのような質問を受けることも少なくない。

  そういう初心者に対して、かつては「ジャズはむずかしいものではありません。軽い気持ちで適当に聴いていけばいいんですよ」と答えていたが、どうやら逆効果だったらしく、その後、ジャズ人口が飛躍的に増大したという話は聞かない。よって昨今は「ジャズは難解な音楽である」という本当のことを前面に押し出し、ヨチヨチ歩きの初心者に覚悟を求めるという「愛の鞭(むち)」に路線を変更している。いまのところ効果のほどはわからない。

生涯の友を

  ジャズは難解な音楽である。決して向こうから笑みを浮かべて歩み寄ってはくれない。満面に笑みをたたえたような人づきあいのいいジャズもないわけではないが、その種のジャズは飽きがきやすい。生涯の友になりうるジャズは、決して笑ってはいない。そして、こちらから近づく努力をしなければ、心を開き、受け入れてはくれない。

  何から聴けばいいのかという問いに対しては、「マイルス・デイヴィスから」と、これは昔もいまも変わらず即答している。マイルス・デイヴィス、ジャズの帝王。およそ半世紀にわたって第一線に君臨し、ジャズのみならず音楽の歴史を何度も塗り替え、いまなお高い人気を誇る最大のカリスマにしてスーパー・スター。

  マイルスを聴けば、ジャズのすべてがわかる。その壮大なる歴史、ジャズ史を彩る数々のミュージシャン等々、マイルスのCDをどれか1枚手に入れるだけで、ジャズのエッセンスがもれなくついてくる。たとえば『カインド・オブ・ブルー』という作品。ジャズ史上最も高い売り上げを誇り、いまなお記録更新中とされる同作には、マイルス(トランペット)をはじめ、ジョン・コルトレーン(テナー・サックス)、キャノンボール・アダレイ(アルト・サックス)、ビル・エヴァンス(ピアノ。1曲のみウイントン・ケリーに代わる)、ポール・チェンバース(ベース)、ジミー・コブ(ドラムス)といった人気ジャズ・ミュージシャンが集結し、極上の演奏を聴くことができる。しかもこれは『カインド・オブ・ブルー』に限ったことではなく、マイルスが残したアルバムのほぼすべてに当てはまる。すなわちマイルスのCDは、1枚で何度もおいしい。

マイルスvsコルトレーン
中山 康樹・著

定価:914円(税込) 発売日:2010年02月19日

詳しい内容はこちら