2011.07.20 書評

今こそ、書物の力を見直したい

文: 池上 彰 (ジャーナリスト)

『世界を変えた10冊の本』 (池上彰 著)

 本には、とてつもない強さがあります。

 読んだ人が、内容に感動したり、感化されたり、危機感を抱いたりして、何らかの行動に出る。それによって人々が動き、ときには政府を動かし、新しい歴史が築かれていく。そんな力を持った書物を10冊、私の独断で選びました。

 第1章で取り上げたのは『アンネの日記』です。意外な感を持たれる方もいらっしゃるでしょう。実はこの本は、中東問題に大きな影響力を持っています。

 第2章は、世界最大のベストセラー『聖書』。『旧約』と『新約』に分かれた書物は、多くの人を信仰に導きました。平和な社会を築く助けになったこともあれば、「信仰」の名の下に十字軍などの血なまぐさい行動もたびたび発生しました。

 第3章は、イスラム教徒の聖典『コーラン』。内容を知れば、イスラム教が本来は慎ましく穏やかな宗教であることがわかります。キリスト教徒とイスラム教徒は同じ神(唯一神)を信じていますが、歴史の中で、欧米社会とイスラム世界の対立構造が形成されました。

 第4章では、宗教が私たちの生活に思いもかけぬ形で影響を与えることを明らかにした『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を紹介します。「来世での永遠の命を希求する」行動が、強欲な資本主義の精神を築いた、という理論は、その着眼点のユニークさに驚かされます。

 マックス・ウェーバーが、資本主義の精神をキリスト教のプロテスタントの信仰様式から導き出したのに対して、カール・マルクスは、資本それ自体が人間を支配する神になってしまう仕組みを解き明かしました。第5章は『資本論』です。

 資本主義の非人間性を明らかにしたこの書は、しかしながら、資本主義を打ち倒した後の設計図たりえませんでした。このため、社会主義諸国の停滞と混乱、腐敗を防ぐことができなかったのです。

世界を変えた10冊の本
池上 彰・著

定価:1400円(税込) 発売日:2011年08月10日

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