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笑いあり、涙あり……<br />普遍的な大人のための青春小説

笑いあり、涙あり……
普遍的な大人のための青春小説

文:柴口 育子 (ライター)

『帰ってきたエンジェルス』 (越智月子 著)


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 だが、エンジェルス親衛隊も私たちもあれから半世紀近い時をすごしてきた。小説もヒロインたちのその後の人生と現在を描いている。それは当然、楽しいことばかりではない。

 不動産会社の社長と結婚してセレブ生活を送っていた真理は、夫の会社が倒産し、今はスーパーのレジ係のパートに追われる日々。

 親の遺産で何不自由ない生活をし、アラ還の今も男たちが振り返るような美魔女の留美子は、乳癌の再発に怯えている。

 久子は平凡な結婚をして安定した生活を送っているが、少しボケた義父が恋愛に走って振り回されている。

 夫の仕事で福井に引っ越した京子は、東大を卒業して県庁に入った息子が突然、役所をやめて三十過ぎで引きこもりになり、悩んでいる。

 私たちの仲間も、夫の会社が倒産したり、息子が就職できずアルバイト人生を送っていたり、親の介護をしていたり、問題がない子は一人もいない。ジュリーのコンサートから一年後のタイガース再結成までに癌で亡くなってしまった友達もいるから、この辺も身につまされる。

 エンジェルス親衛隊の最後の一人、君子はみんなで貯めていた「親衛隊貯金」を盗んだ犯人とされ、中三の春、突然、学校を辞めて以来、連絡が取れていなかった。エンジェルスの再結成をきっかけに探そうということになったが、見つからないまま盗難事件の真相が明かされる。そして、再結成コンサートの最後に大団円が訪れる……。

 GS仲間と会うと、あっという間に少女の頃に戻れる。しかし、みんなちょっと苦い人生も送ってきた。作者はGS世代より十歳ぐらい若いが、その辺の機微がよく描けていて、笑いあり、涙ありの胸キュン小説に仕上がっている。

 今、嵐やAKBに熱狂している子たちも、学校の部活仲間も何十年後かに同じ思いをするだろう。そういう意味で、これは普遍的な大人のための青春小説なのである。

帰ってきたエンジェルス
越智月子・著

定価:本体1,300円+税 発売日:2014年11月10日

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