今年1月に直木賞をとり大注目の書き手・木内昇さんが、戦後の浅草で逞しく生きる日本人を描き出しました。作品に込めた思いをうかがいます。
――『笑い三年、泣き三月。』は満を持しての直木賞受賞後第一作です。
木内 5冊目の小説になるのですが、一番思い入れの強い作品になりました。
――木内さんは時代小説もしくは歴史小説の大型新人と言われています。デビュー作『新選組 幕末の青嵐』と二作目『地虫鳴く』では新選組の隊士を、連作短篇集『茗荷谷の猫』で江戸末期から高度経済成長期までの職人や高等遊民などさまざまな人々を、直木賞受賞の『漂砂のうたう』では明治初頭の根津遊廓内外の人間模様を描かれました。終戦後の混乱期というのは『茗荷谷』中にも一篇ありますから、はじめてではないですね。
木内 ええ。実は第二次世界大戦に関しては書くまい、とずっと思っていました。民衆側から見ると意志的な側面があまりにない時期なので。でも、戦後すぐだったら、そこを生き抜いた人たちというのを書けるかもしれない。「別册文藝春秋」から長篇連載の話をいただいた時そう思ったんです。
――物語は昭和21年秋から25年まで、浅草六区のはずれにできた実演劇場「ミリオン座」で働く人々を中心に展開します。年齢も境遇も違う3人の男の視点で、街や人々の生活がなにもないところから徐々に復興していく様が巧みに語られていきます。
木内 根底にあるのは、太平洋戦争というような大きなものをかいくぐってきたからといって、皆簡単には思いを共有出来ない、という認識です。共有できていないから、一方の善意が他方には脅威ともなり、そこからおかしみと哀しみが生まれるわけです。
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