2013.12.19 書評

石垣島の光と心の強さ

文: 鵜飼 哲夫 (読売新聞東京本社編集委員)

『オレがマリオ』 (俵万智 著)

 11月の某日。清水ミチコ、光浦靖子、一青窈が女子会トークを繰り広げるNHKの番組を見ていて、あれれ、と思った。3人が今年の思い出を語るコーナーで、光浦さんと一青さんが、一緒に石垣島に行ったことをあげ、これでもかというほど青い空とエメラルドグリーンの海をバックに、砂浜でジャンプしている写真が映し出された。よほど愉しいのか、すごいジャンプ力だ、と目を見張っていたら、「撮影・俵万智」とあるではないか。撮影者のはずむ心も伝わる、いい写真だった。

 そういえば、一青窈さんに、俵さんが短歌のつくり方を手ほどきする本「短歌の作り方、教えてください」(角川学芸出版)が出ているし、俵さんは石垣島在住である。番組を見ていると、一青さんが、島でシークレットライブをするのに合わせて、光浦さんも島へ渡り、そこに俵さんも合流したらしい。何より驚いたのは、その時3人でシュノーケリングを楽しんだとのことを後日、俵さんから聞いたことである。

 たしか俵さんは元来の運動音痴。水着に着替えるのすら嫌いで、「妙に窮屈で、ベタベタしたり、ねちゃねちゃしたり、裏返ったり、こんぐらがったり。その面倒くささを思うだけで憂鬱になる」と書いていた正真正銘のインドア派のはずだ。それが、である。

 ・シュノーケリングした日は思う人間は地球の上半分の生き物

 海に潜ればサンゴ礁が広がり、魚はうじゃうじゃいる。まるで、水族館のガラスケースの中に紛れ込んだように感じるという。

 ・ぬらぬらのしましまの棒縦に伸びエラブウミヘビ息つぎをせり

 俵さんの第5歌集は、島に住んでからの日々が、豊かな自然とともに活き活きと歌われている。モズクを根元からちぎって、海水で洗って口に放り込めば、潮の香りが胸いっぱいに広がり、感激のあまり、モズク採りに夢中になり、時間を忘れることもあるそうだ。

 ・潮満ちて終了となるモズク採りすなわちこれを潮時という

 

 移住のきっかけは、2年前の3月11日東日本大震災だった。あの日、俵さんは、読売新聞東京本社で、ある会議に出ていた。歌集の第1章「ゆでたまご」は、その同時進行ドキュメントとでもいうべき内容である。

 ・「震度7!」「号外出ます!」新聞社あらがいがたく活気づくなり

 すぐに両親と息子がいる仙台に電話したが、なかなか連絡はつかず、無事を確認出来たのは夜もかなり更けてからだった。交通機関がストップし、仙台入りしたのは、ようやく5日目のこと。異変が起きていた。

【次ページ】

オレがマリオ
俵 万智・著

定価:1,250円+税 発売日:2013年11月29日

詳しい内容はこちら  <自著を語る>俵 万智、八年ぶりの第五歌集



こちらもおすすめ
書評俵 万智、八年ぶりの第五歌集(2013.11.29)
書評『ホームレス歌人のいた冬』 解説(2013.12.24)
書評導かれて彷徨うドヤ街の世界(2013.12.26)
文春写真館室生犀星がみせた晩年の孤独の影(2014.11.04)
書評亡き友・辺見じゅんと語り尽くした 御歌の思い出(2012.02.22)
文春写真館「女の本音」を暴露する歌人・柳原白蓮、三度の結婚(2014.08.11)