レビュー

『烏に単は似合わない』解説

『烏に単は似合わない』 (阿部智里 著)

文: 東 えりか (書評家)

 まず、読者のみなさんにお断りしておかなくてはならない。この小説は途中からあなたを思いもしない世界へ導いていく。タイトルと装丁から想像していた異世界ファンタジーは、ある時点でがらりと色と姿を変える。

 もし、あなたが花とゆめと豪華絢爛な世界で起こる美しくも悲しい物語を望んでいたら、読み終わった後に少々肩すかしを喰らったような気がするかもしれない。

 反対に、ファンタジーなんぞに全く興味がないけれど、帯に書かれた謎解きに興味を持った硬派のミステリー好きなら、最後の1ページを読み終えた後、手を打って喜ぶだろう。

 そうなのだ。この物語ほど、最初に頭に描いた世界観と読み終わったときの印象が違う作品も少ないのではないか。

 そしてこの驚愕の小説を書き上げたのが弱冠二十歳の女子大生であったことにもう一度驚いてもらいたい。すれっからしの本読みで、どんな本でも、もうあまり驚かなくなった書評家の私が一発でファンになってしまった作家、阿部智里のデビュー作である。

 本書は二〇一二年の第十九回松本清張賞受賞作である。偉大な小説家の名前を冠に頂いた文学新人賞の場合、その作家が名を馳せた分野の小説が受賞することが多い。当然、松本清張という名にふさわしい、ミステリーや歴史小説で受賞し、超人気作家になった人たちが勢ぞろいである。『半落ち』『64』の横山秀夫、時代小説の第一線を走る岩井三四二、葉室麟、梶よう子、『利休にたずねよ』で直木賞を受賞したが、惜しくも若くして亡くなった山本兼一など、大人の新人賞というイメージが強かった。

 だが阿部智里はなんと二十歳でこの大きな賞を射止めた。勝因は彼女の持つスケール感の大きさであったと私は確信している。

 舞台は八咫烏(やたがらす)が支配する世界。金烏(きんう)と呼ばれる宗家の長が支配している。宗家の下には宮烏で構成されている東西南北の四つの家があり、それぞれの役割が分担されている。人々は普段は人の姿をしているが、一朝、事が起こり何か飛び立つ必要性がある時は烏に姿を変えることができる。しかし貴族階級である宮烏では、鳥形(ちょうけい)となることははしたない事とされている。

 宮烏以外は山烏と称され、家来や下男、最下級になると鳥形のままで“馬”と呼ばれる荷役などを担う。

 八咫烏と言っても普通の人にはイメージも湧かないだろう。山本殖生『熊野八咫烏』(原書房)という世界各国の八咫烏に相当する架空の生き物を研究した本によると、古代の中国から瑞鳥とされた三本足の大烏のことを指す。太陽の中にあり、天界思想や人類創生にもかかわり、その霊性は宇宙の秩序付けや神仙思想にもつながる深遠な存在だそうだ。日本では神武天皇東征の折、熊野の険しい山の中、先導したのが八咫烏であったと日本書紀に記されているという。そのことから熊野の神使は八咫烏になったそうだ。

 身近なものでは日本サッカー協会のマークが八咫烏をデザインしたものだ。神武天皇の故事にならい、ここから光が輝いて四方八方を照らし、ボールを押えている姿は、サッカーを統制・指導し、ただしく発達させ、栄光を世界に輝かせることを意味している。

 閑話休題。

 この物語の発端は、宗家の若宮の后選びが本決まりになったことだった。有力貴族である東家、西家、南家、北家から姫が一人ずつ選出され宮廷の桜花宮へ登殿の運びとなった。后に選ばれ、次の若宮を産めばお家は安泰、姫自身も赤烏と呼ばれる皇后となってこの国に君臨することができる。そのため、各家では幼いころからお妃教育を施した選りすぐりの姫を立て、優れた女房を付けて桜花宮へ送り込むのだ。

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烏に単は似合わない
阿部智里・著

定価:670円+税 発売日:2014年06月10日

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