──鳥居さんは、もう四半世紀以上、『昭和二十年』(草思社刊)という本を書き続けておられます。タイトルが示すとおり、一九四五年、昭和二十年という敗戦の年の歴史を克明につづったシリーズですね。
鳥居 昭和二十年の一月一日から二月十日までを描いた第一巻が上梓されたのは今から二十五年前の一九八五年、昭和六十年の八月十五日のことでした。六月十五日からを描いた最新刊の第十三巻がこの九月に刊行されるのですが、この巻で描いたのは七月二日までのできごとですから、八月十五日までたどりつくには、まだもう少し時間がかかりそうです。
──この本の手法について、作家の丸谷才一さんが「グランド・ホテル形式」であると評されましたね。同月同日にさまざまな階級、いろいろな業種の男女が日本列島で、あるいは海外のどこかで、なにをし、なにを思っていたのかを重層的に描いていく鳥居さんの手法を。
鳥居 一つの情報は発信者と受信者との間で完結するのではなく、さまざまなひとのあいだを流れていき、それぞれ思わぬ波紋を広げていくものです。でき得るかぎりそのすべてを書き留めておきたいと私は思っています。また、日本の社会を上から下まで縦断して捉えることができるなら、ぜひともそうしたいと考えています。いちばん下には疎開児童、勤労動員の中学生、女学生などがいてずっと上には重臣や国務大臣、あるいは軍部の首脳たちがいます。その最高のところには天皇や皇太后がいる。敗戦の危機に際してのかれらの行動、生活、ものの考え方を具体的に描きながらあのときの社会というものを包括的にまるごと掴みたいと願っているのです。
──それを可能にするのは、まさに気の遠くなるような作業の積み重ねだと思うのですが、どんな日常を送っておられるのかお教えください。
鳥居 私の書斎は十畳ほどの空間ですが、毎朝六時にこの部屋に入ってまず新聞全紙の切り抜きをやります。そのあと七時から資料を調べたり原稿を書いたりして、昼食をはさんで夕食まで仕事をつづけます。毎週、金曜日には図書館に行きますが、そのほかは外出をせず書斎に籠りきりで、八時ころにはもう寝ます。この二十年、旅行をしたこともありません。二十年かけてつくったカードを新巻鮭の箱に入れて整理し、これが四十五箱あります。一箱に三千五百枚入るので全部で十六万枚に近い数になっているはずです。書籍、雑誌、新聞だけでなく日記とか社史、回想録などから拾った情報を書き込んでおくのです。
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