インタビュー・対談

[刊行記念対談]
島田雅彦×ヤマザキマリ
美女ほど不幸の蜜を吸う? 『傾国子女』白草千春的・女の生き方

『傾国子女』(島田雅彦 著)

聞き手: 「本の話」編集部

千春を女優にたとえたら?

 

――島田さんがこの小説を書こうと思われた動機を教えてください。

島田 自分の作品に限らず、過去の偉大な作品でさえ、それ以前の作品の焼き直しであることが多いんです。西鶴の『好色一代女』は、溝口健二が田中絹代主演で『西鶴一代女』で映画化をしてます。この二つがまず念頭にあった。あとは、もう50代だからそろそろ谷崎的な耽美の世界に足を踏み入れたい、なるべく男目線を控えて、一人の奇跡的美貌を持つ女に翻弄され、堕ちてゆく男たちをフィクションで描き尽くしてみたい、と……。

――ヒロインの白草千春は絶世の美女という設定です。ヤマザキさんが最初に読んだときの印象はどうでしたか?

ヤマザキ 最初に読んだとき、どうしても物語に惹かれていって、なかなか具体的な形は出てこないんですよ。「島田さんだからこんな女が好きだろうな」「こういう体型かな」とか別の情報も入ってきて(笑)。ただ、女優だったら夏目雅子かな、というイメージがふと浮かんだんです。ものすごい美女であり「薄幸」なのに不幸さが前面に出てなくて、自分に押し寄せてくる運命を毅然と受け入れる。何にも縛られず、どんどん先に向かっていく。

島田 未加工天然の顔であれだけの美貌の人っていうのは、そうそういるものじゃない。

ヤマザキ いないです。あれは稀有です。女優としての自分の美貌は天性のものだから仕方ない、と受け入れて生きている感じ。つまり本当に美しい人って、あきらめなきゃいけないものがそれだけあるんですよ。

島田 実際に損得でいうと、美し過ぎる人は損しますね。クラスで2、3番目がいちばん楽しいと思う。AKBが正にそうだけど。

ヤマザキ そのほうが男子にもモテますしね。

島田 これが学年1位とか学校1位になると……まず孤独になるし、あらぬ妄想の対象になるし、寄ってくる男がろくでもない。

ヤマザキ 無難に過ごしたい男は、最初から寄っていかないですよ。それにしても、よくもこんなにどうしようもない男ばかり、思いつきましたね。最後のほうは本当に「男って結局救いようないじゃないか」って思うしか無い。島田さん自身が男性なのに、男性のダメなところをものすごく客観的に見て書いていらっしゃる。

島田 女の生き方指南をするつもりはないけど、男に尽くす必要なんて全くない、と強くいいたい。男は必要悪みたいに捉えて、折々に使い捨てればいい。芸能界でも続々ときれいな女優さんが現われては、結婚適齢期を迎えるとくだらない男の元に嫁いじゃうじゃない。パチンコ屋とか青年実業家とか。

ヤマザキ そんなに女優が好きですか(笑)。

島田 もし僕が夏目雅子みたいな娘の父親になって、娘に何を望むかといったら、決して自分を安売りせずに、なるだけいい男を選び、彼ら全員滅ぼしていくことです。

ヤマザキ それを娘に望むんですか(苦笑)。たしかに千春とかかわった人はみな最後は悲惨な目に遭っているけど……。さっきも言いましたが、千春ってどれだけ不幸が襲いかかっても、自分への同情にぜんぜん溺れてないですよね。その辺がちょっと少年ぽい。

島田 まさにそこが目指したところです(笑)。男も女も、加齢とともに自信を失っていきますよね。肉体的にも衰えるし、新しいことへの挑戦にも及び腰になる。ただ昔に比べれば、女を諦めたり捨てたりする年齢がずいぶん上がってきているのも事実。この小説の舞台は現代よりもちょっと前に設定しているけれど、千春に最大限できることをやらせてみたという感じかな。美しく生まれてきたものには、それなりの責任があるんだから、それを果たして欲しいという祈りを込めました。

 具体的なイメージを挙げるとすると、ロッキード事件のときに田中角栄元首相の5億円横領を裏付ける証言をした、元秘書の夫人・榎本三恵子。もともと高卒のタイピストだったのが、すごい美人だったので銀座に勤めるようになって……国を揺るがした事件で「蜂のひと刺し」が流行語になって一躍時の人になったけど、そのあとはお笑い番組で被り物着たり、ヌード写真集出したり、ワイドショー的なネタを提供するところに落ち着いてしまった。

ヤマザキ 正に千春の人生とシンクロします。きれいな女の人って、多様性があるせいで色々なものを引き付けてしまって、それがまた不幸につながっていく。ワイドショー的な「何が起こるか見てみよう」という興味が、この小説に引き込まれる一つの要素だった気がします。一種の荒唐無稽さもあるし。でもああいう荒唐無稽さって普通の女の人にはありえませんけどね。

島田 だから僕が最終的に目指すのは、峰不二子なの(笑)。自分の欲望に忠実で、その都度色仕掛けで様々な男を利用し、諦めも早くて失敗にめげない。懲りないんです。

ヤマザキ 島田さん、峰不二子、お好きですよね。巨乳化女性のパイオニア。イタリア人のうちの旦那も峰不二子好きです。イタリアではみんな「ルパン」をイタリア人だと思って見てましたから。

島田 イタリア語の吹き替えで見たほうが、ぴったりくるんだよね。

ヤマザキ でも不二子は勝ってますよ。ルパンが絶対に自分を愛していると分かっているから。その点でいくと千春は完璧に1人ですもん。親友の甲田由里にも、泣いてすがることはしないですごくちゃんと距離を置いて付き合っている。由里のほうも妬んだりせずに千春を守りぬく。現実の女同士だと、なかなかああはいかない。この由里のキャラクターは、すごく好きでしたけどね。

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傾国子女

島田雅彦・著

定価:1680円(税込) 発売日:2013年1月11日

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