- 2008.02.20
- 書評
常識はずれの生き物たちの進化史
文:川崎 悟司 (イラストレーター)
『絶滅も進化も酸素濃度が決めた 恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 (ピーター・D・ウォード 著/垂水雄二 訳)
生物の進化史に新たな視点をもたらす『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』。日本語版では、多彩な古生物など原書にはないイラストを多数収録している。描いてくれた川崎悟司氏が、本書の魅力について紹介する。
なにげなく見ていたNHKの番組「生命40億年はるかな旅」。
地球に生命が発生してから人類まで至った歴史をテーマにした壮大な番組です。番組のなかで5億2000万年前という途方もない大昔の海にいた「バージェス動物群」という奇妙な姿をした動物がCGで紹介されており、今でもそれは私の記憶に印象深く残っています。
アノマロカリスにオパビニア、ハルキゲニア、オドントグリフスといったこれらの古生物はまるで、別の惑星に棲(す)む生物のようでした。5つの目にゾウの鼻のようなチューブ状の口をもったオパビニアは学会でその復元画がスライドで発表された時、そのありえない姿に会場から困惑の笑いが漏れたという話があるほどです。
私が古生物に興味をもったのはこの番組を観たのがきっかけでした。この番組のほか、これらの古生物を扱ったグールドの『ワンダフル・ライフ』はベストセラーとなり、バージェス動物は恐竜に次ぐ知名度になりました。
生物は進化し、多様化しては絶滅を繰り返し、その結果、各々の時代に各々の動物の世界が見られ、現在の地球とはやはり様子が異なっています。バージェス動物もその時代に生きた一つの動物の世界に過ぎず、その後の大絶滅でほとんどの種が子孫を残さず、姿を消しました。そして恐竜たちが闊歩(かっぽ)していた時代もあれば、信じられないほどの巨大昆虫がうごめく時代もあったのです。今では海に棲むクジラの仲間やジュゴンの仲間も大昔は4本の足でしっかり陸上を歩いていたし、つい最近では、推定体重1トンにも及ぶネズミがいたなんて情報が飛び込んできました。それは現在の常識をはるかに超えており、それが魅力的でもあります。
古生物というジャンルは主に有史以前の大昔のお話ですから、この目で見た者は誰もいなくて謎の部分も多いのですが、古生物が生きた証(あかし)である化石の発掘が次々となされ、新しい情報が追加されていき、生物の歴史のパズルを埋めつつあります。
本書はその生物の歴史のパズルを裏付けるかのようにカンブリア紀から現在まで6億年にも及ぶ地球上の「酸素濃度」の推移によって、生物の進化と絶滅との因果関係を究明するという、今までになかった目新しい内容になっています。
確かに酸素は生物が生きるうえで必要不可欠のエネルギー源ですから、生物の進化、絶滅に影響があったのは疑う余地もありません。6億年の酸素濃度グラフを見ると、酸素濃度が低くなって、底を打つところで生物の大量絶滅があり、上昇すると生物の多様性が見られるなど、今まで古生物学で描かれた6億年の生物史の大きな出来事とほぼ合致するところが興味深いです。
恐竜時代の幕開けだった2億2000万年前頃の三畳紀後期、恐竜と哺乳類が現れたのはこの時期で、この頃は6億年の歴史のなかで酸素濃度が最も低水準でした。そういった状況下で哺乳類が影を潜め、恐竜が繁栄していったのは、なぜなのか?
また、まだ海にしか生物がいなかった時代に上陸を果たした生物が現れ、陸にも生活圏を広げることができたのは?
私がイラストを担当した本書はこれらを酸素濃度という根拠で答えてくれており、知的満足が得られることでしょう。
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