──デビュー二十五周年に刊行される『タイニーストーリーズ』には、二十一の濃密な短篇が収録されています。本のコンセプトはどのようにして浮かんだのですか。
山田 昨年書いた『学問』、その前の『無銭優雅』は両方とも長篇でした。長篇を書きながら同じ主人公とずーっと付き合っていると、短篇欲が猛然と湧いてくるんです。今回はこれまでと違って、短篇集のテーマを決めずに、テイストのまったく違ういろんな短篇をたくさん書きたい、と思った。一人の作家からどれだけ違った内容、違った文体の小説が出て来るのか、その可能性を試したかったんです。
──『タイニーストーリーズ』という本全体のタイトルはかなり早い段階からあったんですか。
山田 『学問』を書いている時から、次は『タイニーストーリーズ』という小さな話を集めた本を書きたい、と編集者に話していました。本当に小さいストーリーを、自分の意のままにコントロールしたい気持ちがあった。「タイニー」というのは、私が上からストーリー、そして、それを作る自分自身に対して「お前はちっぽけなんだぞ」と命令しているような感じでもあるんです。
──せつない恋愛から、死をあつかったシリアスなもの、エスプリのきいたコミカルなものまで、同じ作家によるものとは思えないほどバリエーション豊かですね。
山田 長篇の執筆が、好きな人にずっと寄り添う「糟糠の妻」みたいなものなのに対して、今回の私は「不埒な女」だったの(笑)。毎回違ったものを書くというのは、本当は浮気者じゃないのに、わざと浮気者をやらなきゃいけないのに似ていて、そこに苦しさがありました。でも不思議なことに、浮気者をやり続けていると、どんどん本当に浮気者になってくるのね。次はこんな文体で書いてやろう、その次はまた違う風に書いてやろうというように。もちろんすごく大変で、なぜこんなことに手を出しちゃったんだろう、と書いている途中で何度も思った。同じようなものは一つもないようにしようと思ったら、自分には二十五年分の蓄積があると思っていたのに全然ないのかも! と追いつめられました。でも必ず途中で、「あっ、これだ。私、このために作家をやってきたんだ」と分かる瞬間がある。この短い話の一つ一つに、それが込められています。