2011.02.20 書評

なぜ、北朝鮮を書いたのか?

文: 李 相哲 (龍谷大学教授)

『金正日と金正恩の正体』 (李相哲 著)

  朝鮮語に「生れたばかりの子犬(ハルッカンアジ)、虎(ボム)にも怖じず」という諺(ことわざ)がある。日本語にも似たような諺やたとえはあるが、いささかニュアンスが違う気がする。

  “ハルッカンアジ”とは、生れてまだ一日しかたたない、目も開いていないような子犬のこと。この世に生れてきたばかりなのだから、たとえ「無知」でも仕方がないだろう、という意味が強い。

 一方“ボム”のほうは、泣き止まない子供に「ほら! ボム(虎)がくるぞ」とか、「話を聞かない子は、ボムに連れて行かれるぞ」というふうに使う。朝鮮語の「ボム(虎)」とは、怖い存在というより「すごい何か」を意味している。

 北朝鮮の専門家ではない私は、さしずめ、この分野では「生れたばかりの子犬」である。

 その私がなぜ、北朝鮮を書いたのか?

 理由はいくつかあるが、まず、北朝鮮について一度は書いてみたかった。

 私は年に三、四度、中国と韓国を訪れる。主に資料収集や講義のためであるが、現地で会う学者や友人は必ずと言っていいほど北朝鮮を話題にする。

 北朝鮮が普通の国ではなく、つねに話題を提供してくれるせいもあろうが、彼らが北朝鮮を引き合いに出すのは、私が「朝鮮族」だからかもしれない。

 中国吉林省の延辺朝鮮族自治州に、延吉という市がある。豆満江を越えて中国側に逃れてくる北朝鮮人が多いといわれる地域だが、「町には本当に脱北者が多いのか」、「朝鮮族は自由に北朝鮮に行けるのか」、「北朝鮮に行ったことはあるか」、「北朝鮮の人間に会ったことはあるか」といった質問を浴びせかけてくる。

 私は北朝鮮専門家でもないし、延吉出身でもないと言いたいところだが、ついつい答えてしまう。

 大概、中国人のほうが韓国の人々に比べて、北朝鮮に対する理解は深い。専門家でなくても、北朝鮮の発表を聞くだけで北朝鮮が何を企んでいるか「直感的にわかる」と中国人はいう。

 これは彼らが、社会主義国家の生理を知っているからというより、いま、北朝鮮が置かれているのと同じ時代を、中国人が経験してきているからであろう。

金正日と金正恩の正体
李 相哲・著

定価:809円(税込) 発売日:2011年02月18日

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