美術品を見て、舌に甘みを感じるか苦みを覚えるかで真贋を見分けることができる主人公・神永美有(みゆう)が活躍する美術探偵シリーズの3作目は、これまで以上に各短篇で日本史と西洋史がリンクし合う作品となった。
「“歴史で思いっきり遊んでやれ”というのが今回掲げたコンセプトです。第1話では榎本武揚とナポレオン、第5話では坂本龍馬とローマ法王が描かれたタペストリーが関わり合うというような振り幅の大きなものになりました。元々、日本史、西洋史という風に切り離すのはあまり好きではなく、両者はつながっているというのが持論ですが、独立したお互いのエピソードを自由な発想で組み合わせたことで、より話のスケールが大きくなったと思います」
最近では歴史小説の執筆に力を入れている門井さんだからこそ、現代ミステリーを書く上で「どんでん返し」にこだわったという。
「歴史小説は基本的に読者が結末を知っている物語なので、ミステリーとはアプローチが正反対のジャンルであることに気付いたんですね。それで、読者から『ミステリーが書けなくなったから歴史小説のほうにいったんじゃないか』と思われたくないので(笑)、僕がミステリーの中で最も必要な要素だと考えている、どんでん返しを各話最低2回は用意しました。6話あるので、1冊で合計12回以上のどんでん返しになりますね(笑)。
また面白く読んでもらうためには、歴史の情報や薀蓄を増やすのではなく、逆にどこが書かなくてよい部分なのかというのがクリアに見えるようになりました。従来以上にページあたりの情報量を増やしつつ、リーダビリティーを増すことが可能になった実感があります」
これまでのシリーズでは、神永の盟友(?)である大学准教授の佐々木先生が語り手だったが、今作では主要登場人物であるイヴォンヌ視点の物語や、6篇目では、大学生時代にいかに神永が能力を獲得するに至ったかが明かされるエピソードが収録されている。
「前2作でイヴォンヌの評判が凄く良かったんです。コメディー要素を担当してくれる人物なので、これまではスパイスに留まっていたのが、ようやく活躍させることができました。神永の学生時代の話は、書いてみて僕も意外でした。今では美術の権化みたいな顔してるけど(笑)、まったく興味がなかったんですね。ラストでは別のサプライズもありますし、これを読んでいただけるとシリーズ全体をより楽しんでいただけるのでは」
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