村上春樹が13作目の長編小説、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)を発表したのは昨年4月12日。前夜には深夜営業の書店に長蛇の列ができ、発売1週間で8刷100万部を突破するなど、圧倒的な人気を博したことは記憶に新しい。
同書はその後、英・仏・独語はもとより、スペイン語、イタリア語、中国語、韓国語、はたまた、カタルーニャ語やセルビア語にまで翻訳されて現在世界各国で刊行中だ。
とりわけ英語圏では、この夏、快進撃ともいえる売り上げを見せた。
英語版(タイトル/『Colorless Tsukuru Tazaki and His Years of Pilgrimage』)の発売は、夏の只中、8月12日のこと(アメリカはKnopf刊、イギリスはHarvill Secker刊)。
ロック・ミュージシャンのパティ・スミスは、発売直前の8月5日、「ニューヨーク・タイムズ」紙に、
「上の世代の人々が、ビートルズやボブ・ディランの新譜をレコード店に並んで待ったように、(現代の)読者は村上の新作を待ちこがれる」
と書き、翻訳者のフィリップ・ガブリエル(アリゾナ大学教授)は、「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙の取材に応えて、
「現代社会の不確かさを描写する著者の筆力は、日米の国境を越えて読者に訴える」
と語ったが、彼らの指摘どおり、ニューヨークやロンドンなど諸都市の書店では、発売前夜にハングアウト・イベントを開催、多くの読者がつめかけた。ロンドンにいたっては、王立オペラ劇場やテート・モダン、書店周辺の壁面に、本の表紙をプロジェクター投影し、発売開始の0時をカウントダウンするほどの盛り上がりを見せたという。
そんな同書が、欧米をあっと言わせたのは8月21日。ロイターが、発売9日目にして「全米ハードカバー・フィクション部門/ベストセラー第1位」と伝えたのだ。ちなみに、それ以前の3週にわたりトップの座にあったのはロマンス小説の売れっ子、ダニエル・スティール著の『パーフェクト・ライフ』だった。
好調はその後も衰えず、8月31日と9月7日には、「ニューヨーク・タイムズ」ベストセラー・リストのハードカバー・フィクション部門で2週連続第1位。「ロサンゼルス・タイムズ」のベストセラー・リスト同部門では、8月31日からなんと4週連続でトップを堅持した。
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