第46回大宅壮一ノンフィクション賞の選考委員会が4月7日(火)午後3時より「日本外国特派員協会」にて開催され、書籍部門は須田桃子さんの『捏造の科学者 STAP細胞事件』に決定しました。
選考委員の講評と、受賞者の記者会見の模様をお伝えします。
司会 授賞の記者会見をいたします。まず選考委員の梯(かけはし)久美子さんから経緯についてご講評お願いします。
梯久美子(以下、梯) 選考委員を代表してお話しさせていただきます。今回、3作の候補者それぞれに推す選考委員がありまして、最後に受賞作が決まりました。まずは受賞作についてお話をさせていただきます。
世間の注目を集めて社会的にも大きな問題となった事件を、非常に類まれな取材力と文章力で表した、知的でかつ迫真性に満ちたルポルタージュであるということで、最初から非常に高い全員からの評価を受けました。
新聞記者としての取材がベースになってはいるけれども、新聞では書きえなかった背景というのもありますし、人間ドラマも描かれていて、科学技術と社会の関わりですとか、社会の倫理、科学者の倫理、組織と研究者といった現代の社会を考えるに欠かせない大きなテーマに挑んでいる、大きな構想があることと、細部が正確で知り得なかった事実が書かれているということが長所。
科学ジャーナリストの必要性というもの、現代社会でいかにこういう方が必要かということを改めて世の中に知らしめてくれる作品であった、ということが言えます。生命科学に対する理解の深さとか、それを社会の中で位置づけようとする態度などの資質の部分と、伝える技量の確かさ。これは多分、新聞記者として培った部分が大きいと思うけれど、それに加えて一冊の本を読者に対して読ませる力、正確さを損なわずにドラマとして構成する力、作家として優れた力をお持ちだということが評価されました。科学本ということで単なる解説本や啓蒙のための本ではなくて、臨場感のある非常に優れたルポルタージュになっている。
著者個人の思いと言うのも最低限入っていて、それが書きすぎない程度に、でもきちんと要所要所を押さえられていて、バランスも非常に取れていると思いました。
この事件に対する読者が知りたい事、なかなか新聞やテレビ報道ではわからないことを、わかりやすく説明してくれたということに留まらず、「人間が引き起こした事件である」ということが見えてくる。そこが大きな魅力だと思います。
主要な人物のほぼすべてとメールも含めて直接やり取りしており、それ以外にも匿名の情報提供者がいて、科学者コミュニティーにいる優れた科学者の人たちの意見とか知見とかをキチンと聞いて、このことだけでもこれまで科学記者として仕事してこられたことの成果が出ている。非常にリアリティがありますし、さきほど申し上げた「人間が起こした事件」だということが見えてくるのではないかと思っています。
捏造ということが決定的になっていくプロセスが、非常に臨場感を持ってドラマチックに描かれているけれども、それがわかっていくにつれて、人間というものの不可解が浮かび上がって来て、中心人物は小保方晴子さんという方ですけれども、周りの方たちの人間性や考え方、どのように行動や発言をしたとかが浮かび上がって来るにつれて、その中心にいるはずの、中心人物の持つわからなさというか、不気味さと言ってもいいのではないかと思うのですけれども、それが自然と浮かび上がってくる。単なる解説本ではなくて、人間とはどういうものかという不可思議さみたいなものが伝わってくるものであると思いました。
リークといいますか、匿名情報提供者の色んな情報にも負って記事を書いていらっしゃるわけですけれども、それをどこでどのように書くかというのも重要な問題で、経験や知性、リスクを負うという一定の決断が必要だったのではないか。重要な情報を死蔵させないという大変強い意志、知った者の責任を果たしている姿勢も作品の中で見られる、という意見も出ました。
全体的に非常に正確でよくわかり、かつドラマもあり、筆力というものも、前に進んで読ませる、次をも読みたいと思わせる力があるということで、受賞作にふさわしいのではないかということになりました。それが選考の経過と授賞理由ということになります。
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