貧困、虐待、病気、差別。暗闇のような苦境にあっても、少し先に見える光へ邁進することで、希望を見いだすことができる。ハンセン病にかかった少女は病を追究することで偏見に打ち勝ち、少年矯正施設の少年はギャングの世界から何億キロも離れた火星を研究することで、大学への奨学金を得た。彼らの光となったのが、本書の舞台であるインテル国際学生科学フェア(以下ISEF)だ。
ISEFとは、毎年アメリカで開催され、世界50カ国近くから1500人以上の高校生が集まり、研究成果を競う科学のオリンピックだ。高校生とあなどるなかれ。用意された賞金と奨学金は3億円以上、研究レベルは博士課程を上回り、出場者の5人に1人が特許を出願、企業がスポンサーにつくこともあるのだ。
本書には、ISEF2009に参加した6名の少年少女の生い立ちから地元のサイエンスフェアで出場権を勝ち取るまでの物語が丁寧に紡がれている。絶望に陥っても、自分らしさを見失わず研究に打ち込む姿に、何度も涙があふれた。誰が優勝してもおかしくない。そんなドラマを背負いながら、6人は、受賞式会場で結果を待つ……。
ISEFに参加した若者のその後を知るべく、伝説的な業績を残した5人の物語も織り込まれている。
描かれている若者たちの好きな事に打ち込みながら、自ら人生をクリエイトしていく力は素晴らしいが、まだ十代。常識から外れがちな彼らの才能を伸ばす環境を作ったのは、周りの大人たちだ。自閉症の教育プログラムを考案した少女は、自閉症児と接する際に大切な事をこう語った。
「断定的な考え方から自由になり、ゆったりとかまえてください。ゆっくりと時間をかけて、子供たちを知るようにすればいいんです」
これは、どんな子どもと接する際にも必要な距離感ではないだろうか。子どもの才能を伸ばすためには、大人の覚悟も必要だと教えてくれる本でもある。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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