『となり町戦争』をはじめ「町」シリーズを執筆してきた三崎亜記さん。長編小説『ターミナルタウン』を上梓した。最初の構想から7、8年かかったという。
「インフラや基幹産業を失ってしまったら、町やそこで生活する人はどう変わっていくのかを描きたかったんです」
舞台となる静原町は、かつて首都と旧都をつなぐ広軌軌道のターミナル駅で栄えた鉄道城下町だった。だが、5年前に単なる通過駅になり衰退。駅の西側と東側の住民の間に確執があり、国から交付される補助金が町の収入源だった――。
三崎さんがターミナル駅に着目したのは、その面白さを鉄道紀行文の第一人者である宮脇俊三が書いていたから。
「駅の大きさは町の人口や商業の規模に比例して決まります。しかし複数の路線が交わるターミナル駅の場合は、操車場などの敷地が必要なので何もない場所でも大きくなる。ターミナル駅を中心におき、いろいろ組み合わせていけば面白くなると思い、滋賀県の米原(まいばら)駅へ取材に行きました」
三崎さんは鉄道に乗るのはあまり好きではないが、廃線跡が好きという。
「大学を出てから市役所に就職するまでの1年間に日本中を旅したんです。国鉄からJRに代った時期で、廃線がまだ生々しく残っていたのが、強く印象に残っています。瀬戸大橋の開通後に廃止された倉敷市の下津井電鉄は、この小説のモデルになっています」
本書には旧都から静原町までつながっている全長80キロにもおよぶホームが登場するが、これは内田百けんへのオマージュだとか。
「神戸駅と三ノ宮駅が新特急の停車で争ったことがありました。そこで、内田百けんは、解決策として神戸と三ノ宮の間をホームでつないでしまえばいいと提案したんです」
列車消失事件の謎を解くために長いホームを歩いてきた牧人、影を失った響一、隧道(ずいどう)士の娘の理沙、元町長ら7人が、静原町のこれからを模索していく。
「人によって立場や歩いてきた軌跡は異なりますが、それぞれの正解を持ちよる中で、ベストではなくても、ベターな解決法が見えていくのではないか。この町が黄昏どきを抜け出すことはないかもしれないけれど、一人一人が踏み出していくところを多面的に描きたかった。社会現象をそのまま描いた作品ではないからこそ、読んだ人は自分の問題に置きかえて考えてくれるのではと思っています」