- 2019.07.02
- 書評
アラフォーのねじれたヒロイン像が新鮮! 重めのドロドロ系小説の入門編
文:東村アキコ (漫画家)
『ペット・ショップ・ストーリー』(林真理子 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
今、世の中で何割くらいの人が不倫をしているのだろう。一度、国勢調査で正確な数字を出してほしいと思う。この短篇集も不倫をからめた作品が多い。留守電に残した伝言が不倫の証拠になってしまう『メッセージ』、京都の不倫旅行から帰ったカップルを東京駅で意外な人が出迎える『お帰り』、略奪婚をした女性が最後に残酷な現実を知る『儀式』など、さまざまな形で不倫カップルのてん末が語られている。
彼女たちは日本中が熱に浮かされていたバブルの経験者だ。誰もが映画の主人公になれた時代である。今の若い人なら消費者側からアイドルを応援するだけで満足できるが、彼女たちはいくつになっても主役の人生が忘れられない。「私も楽しんじゃおう」といわんばかりに、罪の意識は希薄。勢いで突っ走るのではなく、淡々とことを運ぶ冷静さもある。それでも隠し通せる不倫はないということか。最後にばれてしまうのは、天罰が下ったみたいでむしろ気分がいい。「人生なめすぎ」とニヤリとなる。
『春の海へ』で主人公が味わう幻滅感ときたら、これはきつい。湘南にドライブするつもりで弁当まで手作りしたのに、連れていかれたのは新横浜のラブホ。しかも壁一面に熱帯魚が描かれている。弁当もここでは食えんだろう。自分がその立場ならと想像すると、胸がウッと詰まりそうになる。そのウワーッとなる瞬間はエンタメ性の強い漫画では扱いにくい。小説だからこそ味わえる感覚だと思う。
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