シンプルで、力強い、胸いっぱいのシャウトを近代の心根に対して浴びせたあと、本書後半は「明日の形而上学」の模索に当てられている。その中心はグレゴリー・ベイトソンの思想の総括的な紹介だ。ベイトソンの業績は、日本でもさまざまな分野で積極的に紹介されてきた。しかし、彼の脱領域的な思考の全体像をこれだけ解りやすく説いた本が日本語で出るのは初めてのことだ。それも、原書の生きのよさをリズミカルに運ぶ「柴田元幸訳」で。これは祝福するしかない。
特に爽やかなのは、モリスがベイトソン思想の「価値」に焦点を当てながらも、そこに帰依することなく、ベイトソンの彼方に、いかにもアメリカ人らしいストレートな未来像を結んでいるところだ。もちろん、語りが熱っぽい分だけ、直球が走っている分だけ、荒れ球も多いかなという印象はある。「いまさら、デカルト批判? またあの図式で? ニッポンの現代思想は、もっとずっと先を行ってるみたいよ」という反応もあるに違いない。しかしモリスが繰り出しているのは、相手に先んじ、魅惑の差異をつけることで売るという、ポストモダンの商業論理に乗った言説ではない。二、三年で乗りこえられる「ニューウェーブ」ではなく、もっとゆったりとした時のうねりの中に彼は身をおいている。たとえて言うならブルース・スプリングスティーン。六〇年代の心を、その明るい反抗精神を、挫折も屈曲も吹っ飛ばす元気をもって叩きつける。そこに、この本のうれしさがある。
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