モリスがこの本で挑んでいるのは、まさにそれなのだと思う。〈六〇年代〉の熱情を導き入れる精緻な知の体系として、彼はベイトソンをもってきた。その選択に、ハートの底から賛意を表したい。
この本が語りつむぐ〈近代〉は、単色にして単純である。洗練された読者の趣味には合わないものであるかもしれない。でも、どうだろう。あなたの子供が、学校でガリレオの物語を学び、それと一緒に中世の人たちに対する軽蔑を身につけるとき、その深いレベルでの認識論的学習を、あなたは解きほぐしてあげることができるだろうか。それどころか、あなた自身のなかにも、やっぱり同じ思いがデーンと居座っていて、あなたが軽やかに唱えるポストモダンな言説なんかものともせずに、あなたの日常を支配しているのと違うだろうか。
要するに、学説をもって、近代を抜けることはできない。世界を“reenchant”するには、それだけの術が必要だ。最初の段落で、「近代科学糾弾の“パフォーマンス”」と書いたのは、そういう気持ちを込めてのことである。「リアリティ」というものが、暗黙のうちに僕達自身が描き上げる図柄なのだということ。それを語っている僕達の足元をさらって進む物語なのだということ。この、知識としては新鮮みのないことを、いつも新しく胸に叩き続けていくことが、新しい図柄と新しい物語を生きるために、必要だと思う。
佐藤良明
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