過去の自分から受け取った手紙――。「八咫烏シリーズ」執筆の原点

作家の書き出し

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過去の自分から受け取った手紙――。「八咫烏シリーズ」執筆の原点

インタビュー・構成: 瀧井 朝世

阿部智里インタビュー(後編)

過去の自分からの手紙

――では、最近はどんな日々を送られているのでしょうか。

阿部 朝起きて、ご飯食べて、体操して、散歩行って、買い物して、料理作って、お風呂入って、寝るという感じですね。

――いつ書いてるんでしょう……。

阿部 いつ書いているんでしょうね……。たぶん夜かな。私、書ける時と書けない時の差が激しいんです。書けるなと思った時には寝食忘れてがーっと書く。それを逃すと次の波が来るまでが長いので、ここで書いておかないと締切に間に合わないから書いちゃえ、となって、気づいたら朝まで書いていた、ということはよくあります。波が次にいつ来るかは私にはコントロールできないので、編集さんは非常にハラハラするだろうなと思います。

――一気に書くといっても、プロットは事前に組み立ててあるわけですよね。

阿部 そうですね。今日、ノートを持ってきていますよ(と、取り出してめくってみせる)。

――うわ、小さな字で細かくきっちり整理して書かれてますね! プロットが箇条書きに書かれているところに「この流れだと説明が続くので×」とか。余白に走り書きもありますね。「はじめちゃんを有能に」とか。第2部で山内に紛れ込むはじめのことですよね。

阿部 この時は、はじめが無能だったんですよ。細かく書かれているのは頭で考えたところで、走り書きはまた違っていて。「軽やかに地獄」とか書いてますね(笑)。

 数字が使えないのに頑張って数字を使ったりもします。「10分の3」とあるのは、全体を10割として、導入部分を何割にするかを考えたんですね。地下街までのシーンが当時は60枚だったので、それが全体の何割になるかを考えて、視点の切り替えがこれ以降だと遅くなるからギリギリだ、などと考えをまとめていった過程が見えます。

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