アナザーフェイス×警視庁追跡捜査係

堂場瞬一という謎 当代随一の警察小説の旗手が放つ2大シリーズの初コラボ作品。その魅力に迫る特別対談!

池上最新刊の『凍る炎 アナザーフェイス5』(文春文庫)と『刑事の絆 警視庁追跡捜査係』(ハルキ文庫)を読んで、堂場瞬一という作家が心底うらやましいと思いました。創作活動の苦しさを知っているので作家を羨ましいなんて思ったことはないのですが、こんなに自分の好きなシリーズを自由自在に使って、新しい展開を考えるって、すごく楽しかったでしょう(笑)。

堂場複数のシリーズを書き進めていくうちに、単に登場人物がちょこっとカメオ出演するのではなく、ストーリーそのものに絡んで合体したコラボ作品をやってみたくなったんです。当然、レーベルが違うので簡単ではありませんでしたが、「一度、出版社の壁を超えてやらせてもらっていい?」と弱気に打診しました。版元が一度食いついたらしめたもので、あとは好きにやらせてもらいました(笑)。

池上「アナザーフェイス」のほうで起きた事件を引き継ぐかたちで「追跡捜査係」のほうは展開しますね。続編ではないけど、緊密に繋がっている。

堂場どちらも独立して読んでもわかるようにしないといけないので、構想にけっこう時間がかかりました。でも、両シリーズとも五作目の節目で、自分でも予想外の力が入りました。非常に書きがいがありましたね。

池上新作は両方のファンにとってほんとうにたまらない展開で、シリーズの分岐点となる大きな内容ですね。まず、大友鉄に刑事の本能が戻ってきたし、亡くなった奥さん似の佐緒里という新しい女性も出てきました。このあたりのアクションのたたみかけ方、今後を期待させる気持ちの高ぶりが実にいい。

堂場大友の変化は、子供の優斗くんの成長と密接に関わっています。息子は思春期に入ったし、再婚するのかどうか? あるいは別の女性が出てくるのか、そのあたりは楽しんで書いていきます。

池上大友の義理のお母さんの「あんまり見合いを断わると私の信用問題にかかわる」って、あのセリフは面白かったなぁ(笑)。大友という“地味な”刑事を中心にすえ、これまで非常にケレン味のある設定を仕掛けてきました。ドームで身代金の受け渡しとか、衆人環視の舞台のなかでの殺人事件とか。僕は三作目の『第四の壁』がいちばん好きなんだけど、青春の回想や亡くなった奥さんの話、主人公の内面をじっくり書き込んでいますよね。日本の警察小説の多くは刑事の私生活があまり展開しないんですが、堂場さんの場合、「大友のプライベートは次にどうなるの?」と関心をそそられる。これはエド・マクベインの87分署シリーズの初期、それからカミラ・レックバリのエリカ&パトリック事件簿など海外ミステリを彷彿とさせます。

堂場最近の作品では、フィンランドのレヘトライネンも、妊娠中の女性警察官を主人公にしたシリーズで私生活をじっくり書いていますね。僕にとっては、事件そのものよりも、主人公とそれを取り巻く人たちがどう変わっていくかのほうが重要なんです。

池上今回の脇キャラでは「アナザーフェイス」の後山参事官が一番かっこよかったし、「追跡捜査係」の大阪府警捜査一課の三輪は、スピンオフにもなりそうなキャラでした。三輪のような男の使い方は、まさにどう二つのシリーズを交差させるかの腕の見せ所で、「そうか、そこでつなげるのか!」と驚きました。

堂場あまり仕事してないんですけど、おいしいとこだけ持っていく効率のいい男で(笑)。

池上大友のために突っ走る「追跡」の主人公沖田はハチャメチャでそうとう笑えたし、相方の西川のセリフは皮肉が効きつつも、うるっときました。

堂場片方は熱血で、片方は理知的。対照的ですけど、典型的なバディものが好きなんですよ! でも「追跡捜査係」は、いつもストーリー展開で悩むんです。複数のストーリーが一つになったり、あるいは一つの事件が二つに割れたりして、僕にしてはねじれた複雑な構成が多いせいだと思います。正直、毎回書くのが地獄です(笑)。でも今回初めてストレートに熱い感じで書くことができたのは、異例のことでしたね。

池上いつもは冷静な西川もこんなに熱くなれるんだと、気持ちがよかった(笑)。

堂場瞬一・著

定価:(本体690円+税) 判型:文庫判
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堂場瞬一・著

定価:767円(税込) 判型:文庫判

堂場瞬一・著

定価:767円(税込) 判型:文庫判
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