2004.01.20 インタビュー・対談

「かわせみ」は日本人の精神安定剤
蓬田やすひろ (画家)

聞き手: 「本の話」編集部

『初春の客 御宿かわせみ傑作選 1』 (平岩弓枝 著/蓬田やすひろ 画)

――「御宿かわせみ」の初期傑作選『初春(はる)の客』には蓬田さんのカラー挿絵が約三十点。ちょっと例のない豪華な本になりましたが、そのぶんご苦労も多かったのでは。

 単行本にカラーの挿絵がこんなにたくさん入るなんてあまり例のないことですよね。それだけに、一冊全体の大きな流れをどう作っていくか、かなり難しかったですね。どうしても単調になってしまうんです。構図であったり、色調であったりの変化をつけていかないと、いくら一点、一点の絵がうまく描けていても、読者はやがて飽きてしまう。それはどうしても避けたかったので、この作品はこの場面を描きたいという思いよりも、全体を優先しました。その流れを作るまでが大変でしたね。

――ずいぶんと具体的な場面にこだわっておられましたね。もう少し、花や風景といったものや、象徴的な絵が入ってくると思っていました。

 「オール讀物」の挿絵ではそれができるんです。雑誌の場合はさっと読んでもらうものですから、挿絵はほんの少しのわさびであればいいわけで、私は人の指先とか、小説には直接は出てこない長屋の室内とかを描きます。でもカラーはそれ自体がきれいだから、つい読者はじっくり見てしまうことになるんです。そこでもし雑誌の挿絵のように実際の場面にはないものを描いてしまうと、逆に、これは何だろう、どういう意味だろうと読者が考えてしまう。そうなると、そこで物語を読む流れを止めてしまうと思うんです。息抜きとしてカラーの絵を見ることはできないんです。ページを開いたら、見開きで絵が入ってくるんですから。場面、場面を描写していくことで、素直に楽しんでもらいたいと思いました。

 もうひとつ、読者も初めてカラーの挿絵を見るわけで、期待も大きいと思うんです。それが、別にこの物語ではなくてもいい花や風景では、物足りないですよね。特にこの本は傑作選ですから、多くの読者はお話の内容はすでに知っている。そういう読者には、絵描きはこの物語なり場面なりにどんなイメージを出してくるのか、自分が抱いていたイメージとどう違うか、そういう楽しみもあるはずです。その期待に応えてやれと思ったんです。ぶっちゃけた話、せっかくカラーなんだし、いろんなものを描かないともったいないという気もあるんです、絵描きとしてはね。

 ただ、これにはまた難しい問題もありまして。これまで、東吾やおるいさんの顔を書くことは、ほとんどなかったんですね。一度『「御宿かわせみ」読本』という本におるいさんの顔を使ったことがあるくらい。

 でも今回、二人と、それから麻生宗太郎、畝(うね)源三郎といった登場人物たちの顔を具体的に描き込んでいます。そうなると、読者の中に彼らのイメージが出来てしまいますよね。今後、中期、後期傑作選(平成十七年、十八年に刊行予定)に絵をつける際や、掲載誌の「オール讀物」の挿絵を描く折も、そのイメージを外すことができなくなるんです。つまり、もう後戻りできない(笑)。だから何点も何点も納得のいくまで下書きをしました。

――小説家によっては、登場人物の顔を具体的に描かれるのを嫌がる方もいらっしゃいますよね。

 その人物の人間性まで表現してしまいますから、絵というのは。つまり作者である平岩先生が、こういうイメージじゃないのにと思う可能性もあるわけで、そういう意味では怖いというか、責任の重さを感じましたね。

 これから二巻目を考える際には、一巻目と同じような流れでいくと、読者の方で絵に対する新鮮味が薄れますよね。カラーに対する驚きはもうないんですから。そうなると、いまお話ししたような工夫だけでは読者に飽きられてしまうし、絵描きとしても面白くない。三巻目ならなおのことです。多少の抽象性や極端な構図上の工夫で、冒険をしてみようかなとも考えてるんです。

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初春の客 御宿かわせみ傑作選 1
平岩弓枝・著 蓬田やすひろ・画

定価:本体800円+税 発売日:2014年02月07日

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