インタビュー・対談

芥川賞作家・羽田圭介さんが語る、ありのままの日常(後編)

『スクラップ・アンド・ビルド』 (羽田圭介 著)

聞き手: 「本の話」編集部
芥川賞作家・羽田圭介さんが語る、ありのままの日常(後編)

「芥川賞作家・羽田圭介さんが語る、ありのままの日常(前編)」より続く

芥川賞をとる前は、自分の本が全然売れないのはテレビで宣伝されないからだと思っていた……。本の売行とテレビ番組の関係について、小説を執筆するときの様子について、自然体でのお話がつづきます。

――執筆はどのようにされているのでしょうか。どんな気持ちの時にストーリーが浮かびますか。音楽を聞きながら書いたりされているのか、執筆のスタイルはいかがでしょう。

羽田 アイディアが思い浮かぶのは寝る前とか電車に乗っている時とか、机に向かっている時とか、色々ですね。特に集中して書くような時は、あまり音楽を聞いたりはせず、無音の中でやっています。例えば歌人の加藤千恵さんは、テレビをつけながらじゃないと仕事ができないと言っていて、それは僕からすると信じられない。

 2010年頃、場所を転々としながら仕事をする“ノマドワーカー”が流行った時に、僕もカフェで書いてみようかなと試してみた時期もあるんですが、コーヒー代400円くらいでどれだけ居座っていいのかと気になって、かえって集中できなかった。だから今は外で書くことはなくて、自宅で無音の中で仕事をしていますね。

羽田圭介さん

――完成させるまでに、今まで最も苦戦した作品は何でしょうか?

羽田 『メタモルフォシス』の中に収録されている「トーキョーの調教」は苦労して、2年くらいかかりました。あと『黒冷水』でデビューした後に書いた2作目の作品『不思議の国のペニス』も結構苦労しましたね。2作品とも全面改稿みたいなことをしました。 

 あとは今、「群像」に掲載予定で直している途中の長編作品があって、これが今までの中で一番苦労してます。2年以上前から書いていて、400字詰めの原稿用紙で1300枚ほど書いたものを、打ち合わせを経て800枚くらいまで削ったんですが、まだ完成に至っていません。芥川賞をとってから、しばらく直しの作業ができない状態が続いていて昨日ようやく改稿を送ったところです。掲載までにも担当編集者と意見のやり取りをする必要があるので、まだ時間はかかるでしょうね。そもそも僕はそれまでわりと編集者の意見に従順で、意見を聞いた上で、そのように直すにはどうしたらいいかと考えるタイプだったんですけれども、この作品は初めて意見を編集者と闘わせながら書いた小説になりそうです。

――次回作についての題材や内容を教えてほしいという声もあるんですが、紹介可能な範囲でお話しいただければ。

羽田 そうですね、『スクラップ・アンド・ビルド』という小説では、若者と老人といった異なる価値観を持った人たちが一つ屋根の下にいたら、そこで何が起きるかということを書いた。それはタフな関係なのでわりと簡単に書けることではあるんです。

 例えば若者が老人のことを恵まれていると揶揄したり、高齢者を排斥するような発言をしてみても、そんな若者も数十年後には必ず老人になるのだから、要するに天に向かって唾を吐いているような構図が自動的に成り立つわけです。なので『スクラップ・アンド・ビルド』は、いってみれば縦の異なる価値観の対立、おかしさを書いたものです。

 そして、今度はそうした対立を横の視点で書いてみようかなと思っています。これはまだアイディア段階ですが、例えば日本でもヘイトスピーチとか排外主義的な動きがありますよね。世界中どこでも近隣同士の仲が悪いという横の関係がある。特に日本は周りを海に囲まれているので、相手の顔を見ないで何か悪口を言ったりしやすい環境にあるなかで、何かそういった横の関係で生まれる対立やそれ以外のことを書ければと思っています。

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スクラップ・アンド・ビルド
羽田圭介・著

定価:本体1,200円+税 発売日:2015年08月07日

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