私たちの暮らしは、「おカネ」を稼ぎ、それでモノとサービスを消費することで成り立っている。おカネとは生きていくうえで欠かせないモノである。だから、できるかぎり多くのおカネを稼ごうと、日々、私たちは働いている。
では、そもそもおカネとはなんだろうか? この日本においては「円」という通貨であり、ずばり言えば1万円札(円紙幣の最高額)となるだろう。1万円札をいっぱい持っている人はお金持ちであり、持っていない人は貧乏人ということになる。しかし、世界一富裕層人口が多いアメリカでは、1万円札をいっぱい持っているお金持ちなどいない。彼らがいっぱい持っているのは「100ドル札」(ドル紙幣の最高額)である。
ここまで述べて、「そんなことは当たり前だろう」という人には、おそらく本書は必要がない。なぜなら、現在の世界経済が各国の通貨が自由に交換できる変動相場制の下で動き、その経済を測るモノ(=指標)がドルであるということを理解できていないからだ。たしかに円はおカネだが、ドルと同じようなおカネではない。ドルは単にアメリカのおカネではなく、「基軸通貨」という「円とは違うおカネ」だからである。
この前提にたって、現在の日本経済を考えてみたのが、本書である。日本のメディアは、GDP、賃金、株価など、すべての経済指標を円でしか表さない。しかし、これでは私たちの経済の本当の姿は見えてこない。
まず、GDPから見ると、アベノミクスが始まる前、2012年の日本のGDPは約474兆円だった。この年、円は1ドル70円台だったので、ドルに換算すると約5兆9000億ドルになる。じつは、この5兆9000億ドルというのは、日本が記録したGDPの過去最高額である。では、アベノミクス以後、GDPはどうなっただろうか? アベノミクス開始から2年後、2014年の日本のGDPは約489兆円である。2012年からは微増している。しかし、ドルでは約4兆6000億ドルであり、なんと日本のGDPは約1兆3000億ドルも吹き飛んでしまっている。
現在、日本人の個人金融資産(2014年末)は約1694兆円である。2012年末の約1552兆円から142兆円も増加している。しかし、2012年末の個人金融資産をドル換算すると約19兆1000億ドルで、円が120円となった2014年末時点では13兆5500億ドルだから、なんと約5兆5500億ドルも減ってしまっている。
では、私たちが景気の実感をもっとも感じる賃金はどうだろうか? 平均給与は1999年以来、ほぼ一貫して下がり続けてきた。1999年は約461万円だったのに、2012年は約408万円。なんと50万円以上も下がった。それが、2013年になってやっと前年を上回って約413万円になった。しかし、2012年の約408万円はドルだと約5万1100ドルだが、2013年の約413万円は4万2400ドルにしかならない。アベノミクスは私たちの給与まで大幅に減らしてしまったのだ。