2014.01.08 インタビュー・対談

黒田夏子
『感受体のおどり』
著者インタビュー

聞き手: 「文學界」編集部

『感受体のおどり』黒田夏子 著 /「文學界図書室」

黒田夏子<br />『感受体のおどり』<br />著者インタビュー

『感受体のおどり』は黒田夏子さんの新しい本であり、『abさんご』以前に一応は書きあがっていた旧い長編小説である。

「その前に同人雑誌に連載していた千枚のものが終わったのが、三十三歳、一九七〇年のことでした。次は二千枚書こうとして、この作品に取りかかったのですが、引越したり身辺がごたごたして、初めの三、四年は断片的なメモを取ったり、考えていただけでした。書き始めたときには、全700番にして、35の断章を二十回、らせん状に巻いていくつもりでした。そのほうが姿はきれいですから。この設計で八百八十枚ほど書いたのですが、最後の二年で、真半分の350番にしようと思い切りをつけました。調子の低いところを切り、他の断章とあわせたりして七百枚で収めました。仕上がったのが一九八四年ですので、ほぼ十年、いじっていたわけです」

 35の断章が十回、と聞いて連想するのは『abさんご』。もしやこちらも、3×5=15、のさんご、ではないか。

「そうです、そうです。さんご十五で、十五夜の連想も隠れています。〈満月たち〉という章もあるのです。350という数字は700の半分という偶然でしたが、ああ、またさんごだ、とあとから自分でも思いました(笑)。七百枚で350番ですから、一つの断章が平均二枚という短さになりました」

 断章を積み上げる方法はどのように編み出されたのだろうか。

「順を追って書いていくのは性に合わないという感覚は、最初からありました。幼年時代から中年に至るまでを時系列で書くと、自伝みたいになってしまって、ほんとうに自分が書きたい芯のところになかなかたどりつけません。語り手の『私』には踊りの世界や物書きの世界があり、生計のためにいろいろな仕事をしています。普通の書き方をするなら、場面が移るときに説明的な文章が必要になりますが、その『つなぎ』を書くのが嫌なんですね。絵ならば空白で残せばいいのでしょうが、文章ではそうはいきませんから」

 こうして順不同で断章を書き溜め、あとで組みあわせるという書き方が三十代で定まったのには、外的な条件も絡んでいた。

「これを書いている時期は、校正の仕事をしていました。不規則な仕事ですし、生活に追われていて、書くことに専念できる状況ではありませんでした。書くための時間が切れ切れにしか取れないというマイナスの条件を逆手に取ろうとして、珍しい書き方につながったのかもしれません。書けるところから手をつけて、あとで編成しなおす書き方なら、長いものが仕上げられるのではないか、という思いもありました。やってみたらそれが面白かった。並びあう断章を連続させたり、対照させたり、変化もつけられるし、場面転換もプラスに生かせる。この書き方が自分にはよく合うという感じでしたので、その後の『abさんご』でも続けています」

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感受体のおどり
黒田夏子・著

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