2016.05.28 書評

大坂の陣を戦った二人――“真田丸”と後藤又兵衛

文: 細谷 正充 (文芸評論家)

『後藤又兵衛』 (風野真知雄 著)

『後藤又兵衛』 (風野真知雄 著)

 千年以上にわたる日本史を題材とする歴史小説の中で、もっとも人気のある時代はどこか。ちょっとでも歴史小説に詳しい人なら、十人が十人、戦国時代と答えることだろう。それほど戦国乱世を舞台にした作品は多いのだ。いや、小説だけの話ではない。たとえば今年(二〇一六年)のNHK大河ドラマは、大坂の陣で徳川家康の心胆を寒からしめる戦を繰り広げた真田信繁(ドラマでは通称の幸村ではなく、本名の信繁が使われているので、ここだけ信繁と表記する)を主人公にした『真田丸』ではないか。二〇〇四年の『新選組!』を担当した三谷幸喜が再び脚本を担当しているが、これが見ごたえ抜群だ。戦国武将のキャラクターに独自色を与えながら、巧みな史実の取捨選択により、現代人が感情移入できる戦国ドラマを創り上げているのである。従来の大河ドラマ・ファンに加え、若い視聴者層を獲得しているのも、納得の出来栄えなのだ。

 この解説を書いている時点では、まだ本能寺の変後の混乱を扱っているが、ドラマのクライマックスは大坂の陣になるはずである。実質的な戦国時代は関ヶ原の戦いで終わった。大坂冬の陣及び夏の陣は、すでに徳川幕府を開いていた徳川家康にとって、残務処理に過ぎなかったのであろう。だが、それにもかかわらず大坂の陣は、最後の最後まで面白い。理由のひとつが、俗に“大坂城五人衆”と呼ばれる、戦国武将の奮闘にある。真田幸村・後藤又兵衛・毛利勝永・長宗我部盛親・明石全登の五人だ。多くの武将が、淀君の顔色を窺うことに汲々としていた中、彼らは積極策を打ち出し、堂々と徳川側の大軍と戦ったのである。なかでも真田幸村と後藤又兵衛の獅子奮迅(ししふんじん)の戦いは特筆すべきものがある。作者自身も本書の「あとがき」で、大坂の陣は“心をときめかすことのできる魅力ある戦になった”といい、

「それはひとえに、負けるのを覚悟で、しかも好条件の誘いも断って、徳川家康の前に立ちはだかった後藤又兵衛と真田幸村のおかげだろう。もしも、この二人があのとき大坂城に入らなかったら、この戦はずいぶん後味の悪いものになっていたはずである」

 と記しているほどだ。だから当然というべきか、大仏次郎の『乞食大将』を始め、後藤又兵衛を主人公とした作品は少なくない。しかも、大坂の陣を扱った物語では、まず間違いなく登場している。そのような戦国のスーパースターを、風野真知雄が、いかに料理したのか。本を開く前から、期待せずにはいられないのだ。

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後藤又兵衛
風野真知雄・著

定価:本体680円+税 発売日:2016年05月10日

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