2014.06.20 インタビュー・対談

公開対談
綿矢りさ×道尾秀介
小説家は幸福な職業か?

第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL(別册文藝春秋 2014年5月号より)

第150回を迎えた芥川賞・直木賞を記念して行われたフェスティバルでスペシャル対談が実現! 普段から親交のある綿矢りさ・道尾秀介の二人が、賞の垣根を越えて語り合った「小説家」という職業の醍醐味とは――

道尾秀介みちおしゅうすけ 1975年生まれ。2004年『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。07年『シャドウ』で本格ミステリ大賞、09年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞、10年『龍神の雨』で大藪春彦賞、同じく10年『光媒の花』で山本周五郎賞、11年『月と蟹』で直木賞を受賞する。近著に『ノエル』『笑うハーレキン』『鏡の花』『貘の檻』など。

キャラクターが振り向く瞬間

道尾 (時計を見て)さて、あんまりひとつのことをゆっくり話している時間がないんですよね。今日のテーマは……。

綿矢 ……小説家は幸福な職業か?

道尾 それを考える手がかりとして、お互いに質問を事前に交換してあるんですよね。その質問を順番にこなしていきましょう。

綿矢 はい。

道尾 質問その1。自分が欲したり、あこがれたりしているけれども、実体験できないというシチュエーションを、小説の中で書くことはありますか。

綿矢 私、ほとんどこれなんですけどね。

道尾 そうだと思った。綿矢さんはいつも同世代の女性を描いているけど、もし自分が絶対に嫌だと思うシチュエーションなら、わざわざ同世代の同性を登場させて書かないだろうから。

綿矢 そうですね。でも、大事なのは「実体験できない」というところなのに、たいてい体験したことを書いてると思われるんですよね。

道尾 ああ、思われるよね。

綿矢 100パーセント真実だと思われる。

道尾 町田康さんなんて、人に会うたびに「意外と普通なんですね」って言われるらしい(笑)。綿矢さんは同世代の同性を書いているし、しかも一人称が多いでしょ。どうしたって重ねて読まれるよね。

綿矢 そう! 最近では、逆に自分が洗脳されてしまって、自分はもともとそういう人間だったのかなとさえ思いますね。あんまりにも私と主人公とが一緒と思われるから、私、もしかしてこういう人やったんかなって。

道尾 でもまあ、自分の中にまったくないものは書けないしね。

綿矢 そうですよねえ。

道尾 それに関して印象に残っている話があるんです。僕、作曲家の小林亜星さんに懇意にしてもらっていて、よく一緒にお酒を飲むんですけど、亜星さんのイメージってドラマの寺内貫太郎でしょ。会うと、ほんとに寺内貫太郎みたいな感じの人なの。でも、聞いたら、あの役をやるまではそうじゃなかったんだって。向田邦子さんから役の説明を受けて、役作りをして、長年演じているうちに、寺内貫太郎の人格になっちゃったんだとか。(口調を真似て)「そのほうが受けがいいから、そのままつづけてるんだよ」なんて言ってて。

綿矢 開き直ったんですね。豪快な感じで、うらやましいです。

道尾 以前『ラットマン』という小説で、30歳~31歳くらいの主人公たちを描いたんだけど、その本があるとき評されて、「30歳の男が描けてない」と言われたことがあるんですね。

綿矢 えっ、道尾さん、30歳なのに!

道尾 そうなの。『ラットマン』を書いていたときちょうど僕、31歳で、31歳が31歳を描いてたわけです。そしたら50代の人から、30代はそうじゃないだろって言われて、すごく違和感があった。

綿矢 それはそうですよね。

道尾 後々考えてみると、リアリティとリアルって違うでしょう。僕は31歳のリアルを描いたわけだけど、もしかして読者の目線で求められていたのは「31歳らしさというリアリティ」だったのかも、とわかりました。

 はるかぜちゃんっていう女の子のタレントがいるじゃないですか。あの子がテレビで口の悪いおばさまたちと対決する番組を見てたら、おばさまたちが「もっと子どもらしくしなさい」って言うわけですよ、子どもに対して(笑)。で、はるかぜちゃんはきょとんとして「でも、子どもですけど」って感じなんです。これ、小説のキャラクター作りにも関係してくることだと思うんですけど、そのあたりのことを聞いていいですか?

綿矢 はい。

道尾 小説で人を書くとき、自分を重ね合わせて書くこともあるし、意識的に「小説的なキャラクター作り」をしないといけないときもありますよね。

綿矢 はい、ありますね。

道尾 そういうときどうします? 小説の主人公にするからには、24時間ずっと眺めていて面白い人のほうがいい。そうじゃないと読んでて飽きちゃうから。でもそのためには、ある程度キャラを作っていく必要もある。綿矢さんはどんな感じで作っていくんですか。

綿矢 老人や子どもを書くときには、自分の中にある老人的な部分、自分の中にある少年的な部分を、誇大化させていく感じですかね。やっぱり、ちょっと会っただけの友達の子どもを思い浮かべて書くというのはなかなか難しいので、自分が子どもだったらと考えて、そこから架空の世界へと進めていきます。

道尾 読者が読んで面白いかどうか。キャラクタライズということは考えますか。

綿矢 うーん、そうですねえ……。

道尾 コンビニでサラダ買ったことあります?

綿矢 もちろんあります。

道尾 サラダの上にゆで玉子が載ってるじゃないですか。あれ、実はゆで玉子じゃないって知ってました?

綿矢 えっ? 知らなかったです。

道尾 あのゆで玉子らしきものって(手を広げて)これくらい長い「ロングエッグ」っていう完全な加工品なんです。黄身状のものと白身状のものを長く伸ばしたやつを人工的に作って、それを切ってサラダに載せてる。なぜそうするかというと、きれいな輪切りを効率的に作れるからなんですけど、小説にもロングエッグ的なキャラクターが必要だと思うときってありませんか。

綿矢 うん、わかります。

道尾 使い勝手のよさやストーリーを優先して、ここでこいつ気が弱かったらまずいなとか、逆に気が弱くないといけないとか、そういう都合で作っていくケースもある。

綿矢 「筋」のほうが強いときですよね。

道尾 僕はそういう書き方が必ずしもよくないとは思ってなくて、どっちを優先させるでもなく、うまくバランスをとりながら書いていくのが楽しいんですよ。

綿矢 私の場合、ロングエッグ的なキャラクターを、あんまり雑に書いちゃうと……たとえば通行人が必要だから入れる、退散して欲しいから引っ込ませるというふうに雑な扱いをしてると、書いている途中で、頭の中でその人がこっちを振り向くことがあるんですよ。それがすごく怖いんです。すっごい無表情で、くるっとこっちを向くんですよ、「俺、もう演じ飽きたよ」みたいな雰囲気で。そうなると「ああもう無理」と思って、その人を出すのをやめたり、最初から変えたりします。

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別册文藝春秋 2014年5月号

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