- 2008.05.20
- 書評
「面白い時代」の立役者が語る「生きた経済学」
文:若田部 昌澄 (早稲田大学政治経済学術院教授)
『霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」』 (高橋洋一 著)
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
今はとても「面白い時代」である。いや、もちろん九〇年代からの不況──ときに平成大停滞と呼ばれる──に斃(たお)れていった人々のことを考えると面白いとばかりはいえないし、大停滞はわが国の命運を大きく揺るがせた。しかし一方でこの時代は、これまでの時代では考えられないさまざまな変化を生んでいることも事実である。
ここに一人の元官僚がいる。彼は、旧大蔵省の官僚としてバブルの発生から不良債権問題の顕在化までを目の当たりにし、また危機的な状況にあった財政投融資制度の改革を陣頭指揮した。小泉政権成立後は竹中平蔵氏の知恵袋として郵政民営化、政策金融制度改革の青写真を描いた。さらに公務員制度改革の設計者でもある。
その人物の名は高橋洋一。つい最近まで一般にはほとんど知られていなかっただろう。ただ「霞が関埋蔵金」が話題になり、『さらば財務省!』という本が爆発的に売れ、『文藝春秋』本年五月号でも記事を寄せているので知名度は急上昇中である。
この高橋氏、実を言うとまさにこの「面白い時代」の日本の経済政策を追いかけている人間にとっては、かなり前から知らない人はいない有名人だった。ことに小泉政権以降の活躍ぶりはめざましい。小泉政権では重要経済政策の半分を手がけ、安倍政権では重要政策の半分を手がけていたのではないだろうか。まさにこの時代を「面白く」するのに大きく貢献した人物である。
このたび文春新書から出る『霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」』という本は、いくつもの点で異色であり画期的なものだ。
まず本書は実際に政策を立案した人物が書いた政策についての本だ。私も例外ではないが、政策について論じる人々の大部分に現実の政策立案の経験がない。他方、日本では実際に政策立案に携わる人々は政策の背後にある論理や政策形成の過程を語ることがきわめて少ない。これは政策立案が官僚を中心になされることが多いからだろうか。
その点本書は政策の論理と過程をざっくばらんに、また生き生きと伝える。実際に聞いてみるとすぐにわかるのだが、高橋氏の面白さはその語り口にある。インタビュー形式の本書はその語り口の面白さをよく伝えている。