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『明治宮殿のさんざめき』解説

『明治宮殿のさんざめき』解説

文:池田 理代子 (漫画家)

『明治宮殿のさんざめき』 (米窪明美 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #ノンフィクション

 そういった女性達の中心にあるのは、当然のことながら、皇后である。

 中でも、「少年のような凜々しい眉」をされていたという、皇后美子(はるこ)の人となりは、心打たれるところが多い。

 小学校のときに、私たち児童が朝礼の際に歌わされた「金剛石」という歌があった。

 子供だったので、全く意味も分からずにただ歌っていたわりには、子供の頭脳は柔らかいもの、今でもこの歌を全部諳んじることが出来る。

金剛石も磨かずば  珠(たま)の光は添わざらむ
人も学びてのちにこそ まことの徳はあらわるれ
時計の針の絶え間なく めぐるが如く時の間の
日陰惜しみて励みなば いかなる業(わざ)かならざらむ

 という歌詞の意味が分かるようになった年頃には、せっせと勉強をする励みともなった。

 先日、明治神宮に初詣に行って初めて、この歌が、昭憲皇太后の御製になるものだということを知った。

 ぱっと突然のように視界に、この歌が書かれた大きな板が飛び込んできて、まるで懐かしい人にばったりと出会ったかのような、何とも言えない歓びに、動悸がうつのを覚えたほどであった。

 皇后美子は、この歌にも現れるとおり、大変に謹厳なお人柄だったということであるが、同時に、お側で働く女官や小姓たちへの包み込むような優しさや、ユーモアと才気にも溢れた女性でもあった。

 貴族の家に育った女性であるから、当然といえば当然のことなのだろうが、天皇が側室の女官たちに産ませた子供たちをも、わが子のように愛し慈しまれたということに、感慨深いものを覚える。

 宮殿の四季折々の営みは、そこを支配する皇后の色に染められるものだと思うが、明治宮殿もまた、そのようなものだったのだろう。

 章ごとに付けられている花宴や蛍、紅葉賀といった、源氏物語を髣髴とさせる小見出しの美しさと共に、各章の末尾にそっと添えられた、立ちのぼる香のくゆりのような文章が、この作品に、美しい色彩とはかない興趣を添えている。

明治宮殿のさんざめき
米窪明美・著

定価:567円(税込) 発売日:2013年09月03日

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