2015.01.13 書評

フジテレビ時代の先輩アナから
「菊間に関する2、3の指摘」

文: 笠井 信輔 (フジテレビ・アナウンサー)

『私が弁護士になるまで』 (菊間千乃 著)

「ちょっと待って、俺が書くの?」。文庫本の解説など書いたことがない。ほかに適任者がいるはずである。しかし電話の向こうでは、あっけらかんと「だって、私が書いた二冊の本の両方に出てくるの笠井さんだけなんですよぉ」。電話口なのに、下からいたずらっぽい目でこっちを見上げたような物言いに負けてしまい、返す言葉が見つからない。こうして、局アナから弁護士になった初めての女性のエッセイの巻末に駄文を献上することになった。

 確かに、私と菊間の関係は浅くはない。『私がアナウンサー』、そして本書に、私が“皆勤賞”なのもその表れなのだろう。

 平成七年に彼女が入社してから、その仕事ぶりを見て、自分と似たアナウンスマインドを持ち合わせていると感じていた。くちはばったい言い方だが、「少しぐらい話がちらかっても心を伝える。情報の芯を感情も含めて伝えようという意志の強さを持つアナウンサー」と言えばいいか。何よりも、当時美人アナが注目されていたアナルームに、日焼けした色黒のひまわり娘が入ってきたのだ。これはこれで目立った。同期の杉浦(高木)広子アナが雪のように透き通る肌だったからということもあるが(笑)、ガテン系と清純派というくらい両者は異なるキャラクターで、杉浦は「広子ちゃん」と親しみを込めて呼ばれる一方、菊間は千乃(ゆきの)という難読で個性的な名前を持つにも拘わらず、「ゆきちゃん」「ゆきの」「ユッキー」などと呼ばれることはなく、いつまでたっても「きくま!」(笑)。いやむしろ親しい者ほど「菊間」と呼んでいた(よって、ここでも“敬称略”)。

 菊間と仕事をしていると、思い切りがいいので、何か男同士の友情が芽生えそうな関係が構築される。おそらく、ロースクール仲間や同僚弁護士の皆さんもそんな感覚になっていると思われる。

 ところが、菊間は突然女子っぽい素顔(注:色香ではない)を見せる瞬間がある。そんなとき、男どもは思わず首を縦に振ってしまうのだが(この文章を受けた時もそう)、こうした処世術を、彼女は戦略的ではなく生まれつき持っているような気がするのだ。さばさばとした性格の中の女性らしさは(実はこう見えて、けっこう弱い部分もあるというのは、本書を読んだ方ならお分かりだろうが)、彼女の最大の魅力であり、今後の弁護士活動にも大いに役立つと思われる。

 ただ、このいかにも男の子っぽい菊間のベールの下の「女子」を敏感に感じ取る者は、彼女のことをちょっと斜めに見たりする。

 すべての人間を味方につけそうな菊間の明るいキャラクターの数少ないウィークポイントはここのあたりかな、と私は感じている。こんなことを知ったように書くと、本人から「そんなことないですよー」と笑いながら否定されそうだが……。

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私が弁護士になるまで
菊間千乃・著

定価:本体550円+税 発売日:2015年01月05日

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