2015.04.28 インタビュー・対談

ITを知る者だけが書ける
21世紀の警察小説

聞き手: 「本の話」編集部

『ビッグデータ・コネクト』 (藤井太洋 著)

ITを知る者だけが書ける<br />21世紀の警察小説

サイバー犯罪対策課の刑事たちと、凄腕のハッカー。彼らがチームとなって、莫大な個人情報を狙う陰謀に迫る――『ビッグデータ・コネクト』は、“プログラムの書ける小説家”藤井太洋さんの面目躍如というべき作品です。これまで、『オービタル・クラウド』や『アンダーグラウンド・マーケット』など堂々たるSFを発表してきた藤井さんが、公共サービスを民間企業が運営する官民複合施設、取調べの可視化、ビッグデータと市民の監視といった「現在」のイシューにとりくんだ初めてのミステリーになります。

――なぜ今回、警察小説というジャンルに挑まれたのでしょう。

藤井 最初のテーマは「取調べの可視化」だったんです。ちょうどパソコン遠隔操作事件がかまびすしい頃でしたので、それについて考えていました。ただ、調べてゆくと、可視化の方針がまだ揺れ動いている状況で、これだけを軸にするのは厳しいなと思って、メインとなる事件を探しはじめたんです。そこで、議論になっていた佐賀県の図書館が民間によって運営されるという問題、あのプロジェクトに関してのちょっとした疑問を出発点にして肉づけしていったら、個人情報、ビッグデータの問題に行き着いた。予感はあったので、「あ、やっぱりそこに落ち着いたか」と思いました。

――サイバー犯罪対策課をリアルに描いた警察小説は前例がないように思います。

藤井 すくなくとも私はまだ読んだことがないですね。いいタイミングで書けたと思っています。エンタテインメント小説ではIT技術が「魔法」のように扱われがちで、例えば携帯電話で位置情報がわかる、みたいなシーンがよくありますが、それは実際にはどういうプロセスで可能なのか、というような点をきちんと書きたいと思っていました。「これからのITスリラー」は、これぐらいの前提を守るべきではないか、という提案でもあります。そうはいっても、「警察小説」としてちゃんと楽しんでもらえるものにしようとは、ずっと考えていました。警察小説を期待して手に取ったかたが「警察小説じゃない! これはITスリラーじゃないか!」みたいに思うことがないよう、登場人物なども工夫したつもりです。

――ジャンルの輪郭をかなり意識したということですか。

藤井 いつも、構想を立てている段階ではあまりジャンル意識はもたずに進めるのですが、おおよそ書きあがって仕上げに入る段階で、刊行されるレーベルやジャンル、あるいは読者層といったものを意識して改稿していきます。『ビッグデータ・コネクト』でいえば、これはSFではなく、もっと一般のかたが読まれる小説なので、主人公はカメラとして機能する人物につくったつもりです。主人公の万田警部は、それほどITについてくわしい人間ではない。おおよその知識は持っていますが、高度なことについては言われないとわからないというくらいに抑えて、代わりに、ものすごくITにくわしい人物を配置しました。もうひとりの主人公であるハッカーの武岱(ぶだい)と、民間から警察に転身したサイバー犯罪対策課の「教授」こと小山ですね。さらに、いわゆる「刑事」っぽい刑事として綿貫警部補を出しています。

――エキセントリックな天才である武岱と、読者と等身大の主人公・万田警部、というのは、シャーロック・ホームズとワトソンのパターンですよね。

藤井 それはかなり意識しましたね。武岱は相当に極端な人物ですが、彼が面白く書けないと、この物語は成り立ちません。例のPC遠隔操作事件から武岱を発想して、一番ふさわしいテーマがビッグデータの利用法、というふうに全体を構想していったので。

――この小説の前半は、この武岱の行動が面白いんです。徹底して自分の個人情報や行動が第三者に記録されないよう、監視カメラの死角を選んで移動したり、カードを使わないよう現金を大量に持ち歩いているとか。

藤井 軍事ものだと銃器の扱い方だったり、SFならガジェットだったり、そういうところでオッと思わされるという面白さですね。できるだけ一般のひとでも真似できそうなかたちで書こうと思っていました。意識して街を見ると、ものすごい数の監視カメラがあることに気づかれると思います。死角だけを通ってどこかに行く、というのは実際にやってみるとむずかしいですよ。まずコンビニに入れない。エレベーターも使えない。

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ビッグデータ・コネクト
藤井太洋・著

定価:本体790円+税 発売日:2015年04月10日

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