- 2014.09.04
- インタビュー・対談
ミステリ界にクールなヒーローが登場――早くも映画化決定!
「本の話」編集部
『ゴーストマン 時限紙幣』 (ロジャー・ホッブズ 著/田口俊樹 訳)
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#エンタメ・ミステリ
ロジャー・ホッブズのデビュー作『ゴーストマン 時限紙幣』は原稿完成とともに日本を含む十数か国での出版が決定した近年まれに見る話題のミステリである。イギリスでは英国推理作家協会がその年最高のサスペンスに贈る「イアン・フレミング賞」を受賞、「フィナンシャル・タイムズ」「ガーディアン」といった一流紙でベスト・ミステリに選ばれた。主人公「私」は“ゴーストマン”と異名をとる犯罪のプロだ。犯罪の痕跡を始末し、犯罪者を逃がし、自分も消える。誰も彼の素性を知らず、自在に姿を変えられる変装の達人でもある。ヒューゴ・ボスのスーツに身を包み、パテック・フィリップの時計を身につけた“ゴーストマン”は、ミステリ界に久々に現われたクールなヒーローだ。
「ゴーストマンのキャラクターを着想したのは、わたし自身の経験からでした」
と、著者ロジャー・ホッブズはいう。
「この小説を書いていたときは大学の卒業目前。当時は最悪の就職氷河期で、将来の展望など何もなかった。一生懸命勉強して、いい大学を卒業すればいい職が得られると信じてきたのに、裏切られたような思いでした。そのときに思ったのです、自分の抱えている弱点を強さに転化してみようと。自分が『何者でもない(nobody)』と感じていたので、主人公を『何者でもない』ことを楽しむプロにしました。“ゴーストマン”は、わたしのように高度な教育を受けた若い男で、自分の知性と、社会的な地位を持たないことを武器にして、犯罪から逃げおおせてみせます。わたしは無力感を感じていましたが、“ゴーストマン”は無力さを自分の強みに変えます」
そう、ロジャー・ホッブズはまだ25歳。本書執筆時は大学4年生だった。しかし、「私」の一人称で語られる文章は、硬質でドライなハードボイルド文体で、その語り口は見事に完成している。じっさい、ホッブズの才能をいち早く見抜いたのはアメリカの老舗文芸出版社クノッフ社のゲイリー・フィスケットジョン。コーマック・マッカーシーやブレット・イーストン・エリス、あるいは村上春樹といった作家を担当してきた名物編集者である。アメリカ文学界のカリスマ編集者が、この若い作家に太鼓判を押したのである。
「小説はその質によって測られるべきで、著者の年齢で測られるべきではないと思いますよ。例えば刑務所に1年入っていれば、郊外の住宅地で50年暮らすよりもずっと、『ハードボイルドな』経験を積むことができます。わたしは刑務所に入ったことはありませんが、多くの犯罪者に直接取材しました。煙草を5、6箱もっていってバーに行き、引き換えに体験談を話してもらうんです。『体験談』が事実かどうかはどうでもよくて、犯罪者がどんなふうに武勇談を披露するのかを知りたかったんです。それを真似るために。
小説作法は完全に独学です。わたしに才能があるとすれば、自分の文章の良し悪しがわかることでしょう。わたしはただ文章を書き、よいものだけを残してあとは捨て、それを繰りかえす。それだけです」
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