特集

高校生直木賞を決めた生徒19人のリアルヴォイス

『ナイルパーチの女子会』 (柚木麻子 著)

一冊々々への愛着

都立富士高等学校 山本真子

 普段、様々な本を読んでいる時に浮かぶふとした疑問や違和感といった感想は、ほとんどの場合は誰とも共有することなく、議論を交わすことなく、未消化のままで終わってしまいます。今回、高校生直木賞の選考に参加させていただくことで、本に対する意見の主張や共有、より深い考察という今までにない機会を得ることができました。特に、本選会場では全くの他人と議論する場で、うまく言えないながらも自分の感じたことを言葉にすることはよい経験になったと思います。今回の参加は、「先生、これやろう!」と私が図書委員会の顧問の先生に提案したのが始まりでした。しかし、その時に考えていた以上に素晴らしい議論ができ、とても楽しい半日でした。

 また、その様な機会を得ることで、一冊々々に対する愛着も生まれたように思います。その中でも推していた「戦場のコックたち」が最後の最後に負けてしまったことはとても残念でしたが、第三回高校生直木賞の「ナイルパーチの女子会」含め、どれも素晴らしい作品たちでした。

 今回の参加によって、ビブリオバトルのような本に対する主張だけでなく、本に対する議論も本校で活発化していけばよいなと思います。

>>>第3回高校生直木賞参加校一覧

読むということ

都立南多摩中等教育学校 乾誠一

 図書室でひっそりと自分の読書をすることが至上の楽しみであると思っていた。しかし司書の方に声をかけてもらい、高校生直木賞に参加させてもらうことになった。図書委員会の面々と意見を戦わせ、さらには全国の精鋭が集まる中で、私が発表する運びとなった。今まで本について語ることや、積極的に本を薦める理由を考えることをあまりしてこなかったので、いきなりそんな大役が務まるか正直不安であった。

 それでもどうにか意見をまとめ、準備をして本番に臨んだ。しんと静まり返る部屋でも不思議と緊張しなかった。一次審査の結果が振るわなかった作品から議論がなされる。それぞれが学校での議論や自分の意見を織り交ぜながら作品を読み解く。自分も自然と頭で整理し、他の人の意見を聞きながら作品を読み深めた。意見が出そろい、もう一度集まったメンバーでそれぞれどの本を推すか選考する。『ナイルパーチの女子会』は相変わらず高評価だったが、一次審査で人気があった『羊と鋼の森』が伸び悩み、『戦場のコックたち』が二番目になった。ここからは完全にその場のメンバーで高校生直木賞を決める。やはり総合して『ナイルパーチの女子会』が有力だった。完成度の高い強烈な個性の前で、他の作品が推された。私は『戦場のコックたち』を推したが、覆すには至らなかった。

 この選考会を通じて、私は語り合う楽しさを知ることができた。結果は結果として、その議論の過程が楽しかった。こう反論したら、どんな意見が引き出せるのか。いつの間にか物怖じしない自分がそこにいた。本への向き合い方、ひいては人との関わり方において、いい経験だった。

>>>第3回高校生直木賞参加校一覧

僕達の問題について

芝高等学校 鈴木大樹

 高校生とは何なのか。高校生は何を求めていくべきなのか。高校生は何を求められているのか。

 今回の「高校生直木賞」は、自分達が文学作品に賞を与えるという責任と緊張の中で、同世代の選考メンバーと普段の会話の中では生まれないような踏み込んだ議論ができたのでとても勉強になった。

 その中でも、校内予選では「高校生直木賞というものが世の中に対して何を発信していくべきなのか」という問いがかなりの議論になった。これは選考基準という意味を超えた問題であり、常に論じられるべきテーマであるように思う。

 一方で、本選では「高校生」という問題の論じられ方がやや物足りないように思われた。友達に薦められるかどうかとか、性的な描写が高校生のイメージにそぐわないとか、そういう基準ではなくて、今、高校生の僕らが、その肌に接しているレベルのリアルな問題としての「高校生」を扱えるようになったとき初めて、議論の密度が高まり、「高校生直木賞」の意義が生まれるのではなかろうか。

 そういう意味では『戦場のコックたち』の議論は面白かった。作者が戦争というものに対して何らかのスタンスを示すべきだという僕の意見に対して、“高校生が選ぶ大衆文学”というものには教訓じみた作者のスタンスなど不要であるという意見が飛んだからだ。

“高校生”であり“大衆”である僕は、小説というものに何を求め、見出していくべきなのか。今後の課題としたい。

>>>第3回高校生直木賞参加校一覧

作品への見方が広がった

国際基督教大学高等学校 藤井悠香子

 私が本選考会に参加して一番驚いたことは、選考に参加していた皆さんの作品に対する考察の鋭さです。

 特に、受賞作となった「ナイルパーチの女子会」についての議論の時には、新しい意見が出る度に驚きました。私は校内選考の段階から別の作品を推していて、確かに心をえぐる衝撃的な作品だとは思いましたが、この作品を推す人の気持ちがあまりぴんと来ていませんでした。でも、本選考会で他の意見を聴いていくうちに、この作品の深さに気づかされました。

 例えば、タイトルにもあるナイルパーチは、外来種として各地の生態系を破壊したことで知られる魚です。このナイルパーチが人間によって連れてこられて生態系を壊したように、作品の主人公の二人も、彼女達の中の凶暴な側面が周りの人間によって引き出されていったのではないか、という意見がありました。それまで私もぼんやりと主人公達とナイルパーチを重ね合わせてはいましたが、それだけではなく、ナイルパーチは彼女らを取り巻く人間関係や、環境そのものの比喩であり、この作品のテーマがより大きく見えたような気がしました。

 他にも思いがけない意見がいくつもあり、私の「ナイルパーチの女子会」に対する見方が大きく広がりました。他の人の、特に自分とは違う意見に触れるのは大事だなあ、と改めて思いました。新たに出会った意見や視点を思い出しながら、もう一度選考した作品を読んでみようと思います。

>>>第3回高校生直木賞参加校一覧

差異の魅力

聖学院高等学校 平子雄也

 参加前、私は不安を掻き消そうと、何度も候補作を読み込み、万全の準備を整えたが、実際に選考に入ってみると、そこまで頑なに過ぎる必要はなかったと実感した。和気藹々とした雰囲気の中で、作品について自分の見解を語り、他の人にも意見を求めるといった順序で進行して行く選考会は、私にとって新たな気づきと楽しさを感じさせてくれた。

 新たな気づきとは、一人一人の感性の差異である。一見、当たり前のことのようだが、今回の選考会では、それを色濃く実感した。

 たとえば、「羊と鋼の森」について、この作品で重要となってくるのは「ピアノの音色の描写」である。作中の旋律描写が私には新鮮に感じられ、作品がひとつの音楽作品と感じるほど、読み進めるごとに、ひとつの大きな交響曲が頭の中で完成していく感覚を覚えた。

 しかし、選考会では、こうした描写に大きく感情を揺さぶられたという意見は少なく、また「表現が綺麗すぎるのではないか」と言った意見もみられた。こうした差異について、自分を俯瞰して考えた時、そこに新たな気づきがあった。

 この作品で重要になってくるピアノは、私の家にもある。父はピアノを弾くことが好きで、毎日それを弾き、私もその音色を常に耳にしている。日常的にピアノの音に触れていたからこそ、私は、描写されている音色を、より明確にイメージし、そのイメージを更に膨らませていったのだ。

 このような「差異から起こる考えの転換」は、一人で書評を書いたり、Amazonのコメント欄に書評を書き入れたりするだけでは体験できない。他者と実際に向かい合って、互いが真剣に話し合い、相手の意見に耳を傾け、時間をかけて読み込むことで得られるものなのだ。

 日常生活の中で他人と接するときも、同じことが言える。まったく同じ生活、まったく同じ体験をしている人が二人いないのと同じように、人の感じ方はそれぞれだ。当然、物事の感じ方には差異が生じる。差異が原因でトラブルが起きることもあろう。そのような時には、一度自分自身を俯瞰し、他者との差異を確かめる姿勢が重要になる。「ナイルパーチの女子会」に登場する彼女たちも、それが出来ていれば、あのようなことにはならなかったのかも知れない。

 本について語り合うことは、日常生活から差異を発見し、それを愉しむことにつながる。

>>>第3回高校生直木賞参加校一覧

ナイルパーチの女子会
柚木麻子・著

定価:本体1,500円+税 発売日:2015年03月28日

詳しい内容はこちら

つまをめとらば
青山文平・著

定価:本体1,500円+税 発売日:2015年07月08日

詳しい内容はこちら

永い言い訳
西川美和・著

定価:本体1,600円+税 発売日:2015年02月25日

詳しい内容はこちら

羊と鋼の森
宮下奈都・著

定価:本体1500円+税 発売日:2015年09月11日

詳しい内容はこちら  特設サイトはこちら