私はもう三十年以上、もの書きをやっているが、現代ほど風あたりが強いときはない。
何か言えばネットですぐ叩かれる。こちらが何かあえてインパクトの強いことを書いた時には、反響はあらかじめ予想出来る。こういうものは心して読むけれども、中にはどう考えても、いいがかりとしかとれないものがいくつもあり、私はつくづく、
「署名原稿を書いていること自体気にくわないんだ」
と思わずにはいられない。
今はネットで誰もが好きなことを発言出来る。しかも匿名で。時には例の、
「日本死ね」
のように、社会を変えるものもあるかもしれない。が、たいていはすぐに消えさる。その時々でちょっとは騒がれたとしても、匿名であることの弱さはそこにある。つまり、結局は発言者は全く責任を負わないことをみんな知っているからだ。
私たち署名原稿を書く者の誇りは、全責任はすべて自分が負わなければならないということだ。失言したこともあるし、個人的に謝罪に出向いたこともある。
何よりも連載を続ける、ということはシビアなものだ。何人の執筆者が週刊文春から退場していったことであろう。編集者はなれ合いの仲よしごっこをしているわけではなく、こと細かくアンケート調査をしたり、世間の評判を聞いている。
つまり何を言いたいかというと、私が週刊文春のエッセイを三十二年間やってきたのはそれなりの根拠があるということだ。今回まとめてもらったものを読むとかなり面白い。
「いいこと言ってるじゃん」
「そうだ、そうだ」
と自分の文章に感心したりもした。
これもすべて署名原稿を書き続けてきた結果というものだ。
反発されるのをわかって再び言うが、私たちはプロである。皆がネットでたれ流しているようなことを書いてもお金はもらえない。毎回、新しい発見、新しい視点を探さなければ、エッセイ連載を続けることは出来ないのだ。小説を書いている方がラクチンと思うことも何度もある。
そうして私たちは鍛えられ、意地悪くなり、好奇心が強くなり、ふつうの人よりもいろんなことが見えるようになったと思う。この本を読むと自分でもそれがわかる。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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