池内恵さんの『イスラーム国の衝撃』が2015年1月20日の発売直後から大きな話題となっている。発売翌日には増刷が決まり、累計85,000部に達した。著者の池内さんに緊急インタビューをした。
――発売日当日に日本人人質事件が発生しました。
「イスラーム国」による人質殺害要求やその背後の論理、意図した目的、結果として達成される可能性のある目標については、本のなかで詳細に分析しています。今回の事件も本書で想定していた範囲内の出来事と言えます。
しかし、偶然とはいえ、あまりのタイミングでした。
事件発生直後から問い合わせが殺到したため、「中東・イスラーム学の風姿花伝」という個人ブログで、「『イスラーム国』による日本人人質殺害予告について:メディアの皆様へ」という文章で見解を載せたところ、「シェア」による拡散が3万8000件(1月22日午後8時現在)にも達しました。
これまでも自分自身の「研究活動」となまなましい「現実」が偶然とは思えないほどにシンクロする経験をしてきました。
2001年にアジア経済研究所への就職後、ほとんど間をおくことなく、9月11日に米同時多発テロが起き、イスラーム思想が国際テロリズムにどう関係するか、分析を始めました。
2004年4月に京都の国際日本文化研究センター助教授に転職して、赴任した初日にはイラク日本人人質事件が発生し、メディア対応で東京にとんぼ返りすることになりました。
そして今回の本の発売日に起きた人質事件です。
ちなみに殺害予告ビデオに「処刑人」として登場しているのは、テロ研究・報道の世界では有名なJihadi Johnとも呼ばれる英国人です。過去の欧米人人質予告映像にも登場しています。偶然のことですが、本書の帯の写真も同一人物です。
――イスラーム国のねらいはどこにあるのでしょうか?
たとえば「安倍首相の中東での発言がテロを招いた」という議論がありますが、これは軽率であるか意図的なら悪質な反応と思います。安倍首相が中東を歴訪してこれまでと違う政策を発表したからテロが行なわれたのではない。単に首相が訪問して注目を集めたタイミングを狙って、従来から拘束されていた人質の殺害が予告されたのです。本末転倒の議論です。
日本では往々にして、「テロはやられる側に落ち度がある」「政府の政策によってテロが起これば政府の責任だ」という声があがります。しかし、「テロはやる側が悪い」というところから出発しないと始まらないでしょう。その上でそのような暴力を振るう主体からどう人質を取り返し、暴力を振るう主体をどう無力化していくか。
暴力に威圧されて、武装勢力の意のままに語ったり、自ら意を汲んでしまいがちなのは人間の抗いがたい習性ですが、もし意図的にテロの暴力を背景に日本での政治的な意思を通そうとする人が出れば、まさにテロリストの思う壺です。テロの目的は、まさに、ターゲットとなった社会の人々に「相手ではなくこちらが悪い」「自分たちの政府が悪い」と思わせて内紛を生じさせ、精神的に屈服させることにあるからです。
中東現地の情勢において、2人の日本人を人質にとることに軍事的な意味は何もありません。「日本人の心の内」こそ、彼らの標的なのです。
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