戦国武将・宇喜多直家の生涯を描いた『宇喜多の捨て嫁』。表題作でオール讀物新人賞を受賞した木下昌輝さんの、満を持しての単行本デビュー作だ。一見してマイナーな武将のどこが魅力的だったのか?
「竹内流という古武術を習ったのがきっかけです。この流派は、隣の人間がいきなり襲ってきた場合とか、食事中に膳を投げつけられたときの対処法など、裏切りを前提とした技が多く、人間不信の塊(笑)。これぞ戦国時代の武術だと感心していたのですが、開祖の竹内久盛は宇喜多直家に敗北しています。じゃあ直家はどんな人物なのかと調べ始めたら、謀(はかりごと)に次ぐ謀で敵を滅ぼした梟雄でした。久盛以上の人間不信ぶりに、宇喜多直家を小説にすることは戦国を描くことではないか、と思うようになったんです」
この作品では、舅の暗殺(「貝あわせ」)や主君への裏切り(「ぐひんの鼻」)、娘の嫁ぎ先を次々と滅ぼす謀(表題作)など権謀術数の限りを尽くす直家の姿が描かれている。出来事だけを追えば非道だが、調べるほどに直家が“悪人”とは思えなくなったという。
「直家は主君に対して度々反乱を起こしますが、失敗するとすぐに降参するんですよ。初めは器の小さい武将だと思いましたが、よく考えたら無駄な犠牲を出さないのでとても合理的。足軽として戦に駆り出される百姓にとっては、良い領主だったんじゃないかなと。しかも意外なことに結構民主的なんです。ある古参の家臣が『最近は若い者ばかり重用されているのが不満だ』と直談判したときも、言い分を受け容れている。相手が信長なら死を覚悟しなくちゃいけませんが(笑)。彼が持つ複雑な人間性も大きな魅力でした」
直家の生涯を追ううちに、なぜこれほど宇喜多直家に魅かれるのか、そして彼を通して何が書きたかったのかが、木下さん自身にも見えてきた。
「この物語を書いて、英雄になれない人の生き方に深く共感する自分に気づきました。なぜだろうと思ったら自分自身そのものだからなんですよね(笑)。高校のときはバレー部でずっと補欠。ジャンプ力も反射神経もない自分が、チームで活躍するにはどうすればいいかを考える日々でした。きっと宇喜多直家も、東に織田、西は毛利の大大名に挟まれて、どうやって生き延び、自分の領民を守るかを必死に考えたはずです。その結果、一番犠牲を少なくする方法が種々の謀略だったのではないかと。圧倒的な才能を持たない人間があがく姿に、僕は胸を打たれたのでしょう。これは僕にとって大きなテーマであり続けるだろうと思います」
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