「実は物心ついた頃から、笑うことが大好き。一時期は眠い目をこすりながら、深夜のお笑い番組を観ていたほどです(笑)。いつも面白いものを探しているんですが、これまでの人生でお腹がよじれるくらい笑った経験は数回しかありません。ユーモア小説を書きたいと以前から思っていたけれど、それ以上に、受け手としてコメディを読みたいという気持ちが強かった」
髙村薫さんの新刊は、意外や意外、爆笑必至のユーモア小説。「髙村さんが、一体なぜ?」という疑問を誰もが抱くだろう。その理由をこう語る。
「以前にもお話ししたことがありますが、95年の阪神大震災に遭って、私の価値観や人生観が180度変わってしまったことが大きく影響しています。デビュー当時はバブル崩壊直後で、不良債権問題が出てきた頃。日本の行く末をひたすら考え続けていたのですが、震災が起きて、地面が揺れれば吹き飛んでしまう人間社会の脆さを目の当たりにしました。その後、小説を書くことの意味を考え始めた時に、書くものが決定的に変わった。型破りでもいい、ハチャメチャでもいいのだと思えるようになったのでしょう。あの体験があったからこそ、『四人組がいた。』を書けたのかもしれません」
物語の舞台は、野鳥と川の生き物を除けば、わずかな年寄りと四つ足しか棲んでいない山奥の限界集落。儲け話と食べ物に目がない元村長、郵便局長、元助役、キクエ小母さんの四人組は旧バス道沿いに立つ郵便局兼集会所に集まっては、世間話に花を咲かせる。そこへ珍客(珍獣?)が現れ、静かな村に騒動が起こるのだが――。
本作はファンタジー色が濃いが、髙村さんの実体験に基づいて書いたエピソードも多いそうだ。
「私は都会生まれの都会育ちですが、小さい頃から両親が田舎に親しむ機会を作ってくれました。私が経験したのは、今人気のスローライフやエコといった純朴さとはかけ離れた里山。みんな欲深くて、儲け話にすぐに飛びつく。意地悪、好奇心、男女のあれこれも全部むき出し(笑)。とにかくありとあらゆるものがダイレクトで、大きな衝撃を受けました」
AKB48を思わせる子ダヌキのアイドルユニットが東京進出、ケールとキャベツの大戦争、元アイドルのインチキ祈祷師、果ては閻魔さまと行く地獄巡りツアーまで。怖いもの知らずの四人組は、いつでもどこでも大暴れ。軽妙な語り口と随所にちりばめられた皮肉たっぷりのジョークが笑いを誘う珠玉の12篇。髙村さんの新たな魅力と出会える1冊だ。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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