- 2016.07.21
- インタビュー・対談
毎日を自分らしく、ポジティブに生きる人生の達人(中編)
「本の話」編集部
『もうすぐ100歳、前向き。 豊かに暮らす生活術』 (吉沢久子 著)
ジャンル :
#随筆・エッセイ
前編より続く
吉沢さんは15歳ごろ、叔父の紹介で時事新報社に入社。上司の石井満氏(戦後は日本出版協会会長)と出会ったことが、吉沢さんの人生に大きな影響を与えた。教育学者でもある石井氏は吉沢さんのことを何かと気にかけ、氏の勧めでタイプライターや速記の技術を身に着けることができたという。職場で出会った出版人との交流も盛んになり、同人誌を出すようになる。こうして、家事評論家としての素地が出来上がっていった。
――吉沢さんは15歳からずっと働いてこられましたが、逆に今、お嫁さんになって夫の稼ぎで暮らしたいっていう女の子も増えているようですね(笑)。
吉沢 増えてますよ。だって、働くのがイヤだって人、いっぱいいるもん。
――おそらく吉沢さんの同世代の人って、そういう女性が多かったんじゃないかと思うのですが。
吉沢 もちろん、それが当たり前だった。でも、私はそういうことに反発したんでしょうね。「結婚したら誰かの言うことを聞かなきゃいけない」とか、なんとなしに考えていたかもしれません。それで、私に色んな事を教えてくれた村上浪六さん(作家。大衆小説で人気を博す)の息子は、村上家の女中さんと結婚して、親に大反対された。でも結婚した二人はとても仲良く暮らしていたし、私はそこに行くのが楽しみだった。だから世の中が普通に言うことと実際はやっぱり違うんだなぁと思ってね。幸せな結婚っていうのは、お金に不自由のないところへ嫁いで暮らすってことだと思われていたでしょ。だけどそうじゃない、ああいうふうに二人で暮らすのは楽しいんだろうなぁなんて思ったりして、そういう事で色んなことを学ばせてもらいました。
――人が言うことを鵜呑みにするんじゃなくて、吉沢さんの場合はご自身の目で見たことをまずはキャッチすることを大事にされていた。
吉沢 自分が見たことだったら確かなんですよ。考える土台にしてもいいわけでね。村上さんは親にはああいうふうに勘当されたみたいだったけど、結局、これが幸せなんじゃないのなんて思えるようになって。
――吉沢さんの場合は、例えば結婚についても、人に相談せずに来られたんですか?
吉沢 (もちろんというように大きくうなずいて)誰も相談する人がいなかった。結婚なんて、する意志なかったんですよね(笑)。
――そうなんですか。
吉沢 でも、エスペラント語の勉強会で一緒になった彼と将来一緒に暮らすのもいいなぁなんて思っていたら、彼は戦争で亡くなっちゃいましたからね。で、別にわたし結婚する意志もなくて一生懸命仕事をやっていこうというふうに思っていた。だから、人って自分の思い通りにはならないけど、それで幸せになる人もいるっていう事を考えた方がいいのかも。不幸になることを考えたってしょうがないもんね(笑)。
――その基本の考え方が、前向きでいらっしゃる原動力ではないかとお話を聞いていて思います。
吉沢 みなさんに「前向き」っていわれて初めて、「あぁ、そうなのか」と自分では思うんですよ。
――あぁ、自然にやってこられたわけですものね。
吉沢 自然にそうやってきたけれども、またそれでなきゃ生きられなかったんでしょうね、きっと。後ろ向きっていうのかしら、周囲のことばっかり気にして、自分は不幸だとかなんとかって考えていたら、生きられないでしょう。
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