- 2012.07.20
- 書評
選択日記をつけることがなぜ必要なのか
文:シーナ・アイエンガー (コロンビア大学ビジネススクール教授)
『選択日記 The Choice Diary』 (シーナ・アイエンガー 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
15年ものあいだ世界タイトルを保持しつづけたチェスプレイヤーのゲリー・カスパロフは8手先まで読んで、チェスをさしていると言われました。しかし、彼はコンピュータのように8手先までの考えられる手を全て頭のなかで検討しているわけではありません。8手先までの考えられる棋譜(きふ)は、星の数ほどあります。
彼がここで使っているのが、「Informed Intuition」(経験にもとづく直感)というべきものです。
人間の「選択」には、元来二つの方法があるとされていました。ひとつは、条件を一つ一つ検討して決める「理性による選択」、いまひとつは「直感による選択」です。その道の第一人者と呼ばれる人は、実はこの両面をあわせもった方法で「選択」をしています。それが「Informed Intuition」(経験にもとづく直感)です。
「選択」において人はなぜ失敗をしてしまうのかを調査研究してみると、そこには理由があります。人間の認知システムが様々なバイアスによってゆがめられているからです。
『選択日記 The Choice Diary』の左ページは、選択に関するコラムを私が書きましたが、こうした人間の認知におけるバイアスを九つあげています。そうしたバイアスによって、長期的な利益にたった「選択」が難しくなっているのです。
イラク戦争の開戦前、ペンタゴン(国防総省)である演習が行われました。近代兵器と情報システムを持ったアメリカ軍と、それらに劣った中東の不良国家の軍隊がコンピュータ上で戦ったのです。
この不良国家の軍隊を指揮したのが、ポール・バン・ライパーという元海兵隊中将でした。ライパーは自爆船を使ったり、防空レーダー・システムをオフにしてしまうなど、奇想天外な手法をもって対抗し勝ちをおさめてしまったのです。ライパーはベトナム戦争で指揮をした経験があり、戦場で彼は常にメモをとっていることで有名でした。すなわち、記録をし、それを折りにふれ見直し、自らの判断を検証していたのです。そうしたことを何度も積み重ねていくうちに、それらが血肉となり、様々な戦況における的確な「選択」が「直感」のようにしてできるようになったのです。ライパーもまたカスパロフと同様に「Informed Intuition」(経験にもとづく直感)を持っていたのでした。
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