忙しくても1分で名著に出会える『1分書評』をお届けします。 今日は俵万智さん。
まさに、言葉によるジャグリング。著者による鮮やかな技の数々の一端を見てみよう。
回文(上から読んでも下から読んでも同じ、というアレ)なら、こんな具合。
「廃線全制覇」「気温は地獄、五時半起き」「慣例は半裸とすればレストランは入れんか」「眠たいが眠ると太る、胸が痛むね」。
あるいは、アナグラム(文章を一文字単位でバラして、違う文章を作る)なら、こんな感じ。
はぐれ刑事純情派→受験は常時ハイレグ
アナと雪の女王→同じ京都の鮎
歌人である著者は、これを短歌でもやって見せる。
君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ (北原白秋の代表作)
→呑みへ行く仕事不倫と誤解され浅草の寿司企画の危機よ
いちいち惚れ惚れするような出来栄えだが、本書の魅力は、技の完成までの経緯やコツを、惜しみなく教えてくれるところだ。
ひとことでは言えないので、三つの面から本書を掴んでみると、まずは、国語辞典が友だちだった孤独な子ども時代に始まり、いかに著者が言葉遊びにハマっていったかというエッセイとしての側面。加えて日本語そのものの性質に肉薄する「言葉オタク」としての面目躍如な分析。そして言葉遊びそのものの楽しさ、遊び方の解説。こういったものが、豊かで具体的な作品を通して、生き生きと語られる。
早口言葉、しりとり、なぞなぞ、連想ゲーム……こんな身近な言葉遊びが、ルールを工夫することで、どこまでも遊び倒せるのだから、興味深い。
「頭つかいすぎて、疲れそう」と思った人には、スプーナリズムというおすすめの遊びもある。言葉の一部を入れ替えるだけで、なんか可笑しいというやつだ。たとえば苗字と名前の最初の文字を入れ替えてみる。よく知られた名作(迷作?)としては「松平健→けつだいらまん」とか「デーモン小暮→コーモン・でぐれ」とか。名前以外にも「俺につけてもそやつはカール」なんていうのもある。単純な遊びだが、それでも著者は、いかに面白いものを編み出すか、そのコツについてしつこく考察する。そこが、いい。ユーモアあふれるコメントも楽しませてくれる。
軽い頭の体操から、深い日本語の考察まで。言葉は無料で無限に遊べるおもちゃであることを、実感させてくれる一冊だ。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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