山内 私は「後妻業」という言葉を知りませんでした(笑)。この書名のインパクトと、一見異様ですらある表紙の装丁に、まず驚かされた。というのも、自宅でこの本を読んでいたら、言葉にこそ出さないが、なんとも微妙な空気を感じるんだ、家内が隣にいて(笑)。皆さんも似た雰囲気だったかもしれません。
冗談はさておき。物語は、91歳の老人亭主が倒れたという69歳の後妻「小夜子」から、結婚相談所の「柏木」への電話から始まる。しかも倒れたのを野外に放置したとか、血液の抗凝固薬を胃薬にすり替えて2カ月も飲ませたとか、冒頭から際どい話が続く。結婚相談所の男と、妻に先立たれた老人と不自然な結婚と死別を繰り返す女に、遺族や弁護士、元不良刑事の探偵、極道者らが絡み、「後妻業」という犯罪の真相が解き明かされていくエンターテインメント小説です。
この本は、今年、『破門』で直木賞をとった著者の受賞後第1作。著者には大別して2つの系統の作品があります。美術大学卒業という知識を活かして、美術界のいかがわしい面を描く『文福茶釜』や『蒼煌(そうこう)』などの作品群と、詐欺や脅迫といった犯罪、暴力団と刑事、さらに彼らを出し抜こうとする素人犯罪者が活写される『悪果』や『破門』をはじめとする「疫病神」シリーズの作品群。本作は後者に属し、裏社会が非常にリアルに描かれています。
浜崎 まず構成がうまいですね。全体は3つに分かれていると思います。最初は、「後妻業」についてのノンフィクション的な興味で引いていきます。91歳の老人の遺族の視点で、こんな裏世界の悪に、無力な一般人が手玉に取られる様を描く。次は、遺族の弁護士によって招かれた興信所の探偵が登場。表と裏の世界を知る彼が次々と謎を解いていく探偵小説に。そして最後に、抜きつ抜かれつの交渉と銃撃戦というハードボイルドアクションが展開されます。息つかせぬ面白さがありますね。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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