レビュー

暴走するコミュニケーション

『ナイルパーチの女子会』 (柚木麻子 著)

文: 松田 哲夫
ゆずきあさこ/1981年、東京都生まれ。立教大学フランス文学科卒業。「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞受賞。『伊藤くんA to E』『本屋さんのダイアナ』が直木賞候補作に。主な著書に『嘆きの美女』『早稲女、女、男』『3時のアッコちゃん』など。 文藝春秋 1500円+税

 いやあ、驚いた!

 まさか、こんな展開になるなんて、まったく予想もしていなかった。

 若手作家のホープ柚木麻子さんの新作『ナイルパーチの女子会』の中盤あたりで、ぼくはいきなりドスを突きつけられたような驚きに直面した。

 この小説の主役は同じ三十歳の女性二人。丸の内の大手商社に勤める、やり手のキャリアウーマン志村栄利子と、人気主婦ブログ「おひょうのダメ奥さん日記」を書いている専業主婦丸尾翔子である。栄利子が翔子のブログの愛読者であり、同性の友達がいないことが共通していて、二人は急接近するのだが……。

 この小説は「女友達」をめぐる物語なのだ。作中にこういう記述がある。

「恋愛映画よりも女同士の友情を描いたドラマや映画がヒットする。フェイスブックでもツイッターでも、誰もが女友達をみせびらかす。雑誌を開けば、どうすれば同性の支持を集められるか、という特集が組まれている」

 なるほど、作者も時流に乗って、「女友達」の小説を書いたというわけか。たしかに、若い女性にとっては大事なテーマなのだろうが、ぼくのようなオジサンには「ふーん、そうなんだ。男子会なんていうものがなくてよかったな」と、対岸の火事を決め込んでいた。なにせ、『ランチのアッコちゃん』の作者である。きっと、ほのぼのとしたエンディングが待っているはずだと信じていた。

 ところが、翔子と出会って、「たった一人でも女友達がいるだけで、己の色や形がくっきりとなぞられ、存在に自信が湧いて」きた栄利子は、ちょっとした行き違いから暴走に歯止めがかからなくなる。

 その展開が、あまりにも衝撃的だった。ミステリーでもホラーでもなく、普通の小説でこういう衝撃を受けたのは、山本文緒さんの『恋愛中毒』以来のことである。あの小説の場合には、男女の恋愛におけるストーカーだったが、栄利子の場合は、相手への攻撃だけではなく、自虐的な行動にも向かおうとしていた。

 翻ってみれば、ネット文化の急速な浸透が進み、疑似コミュニケーション、疑似お友達が蔓延する時代になった。ぼくたちは、人と人との距離の取り方、生身の人間同士のつきあい方が確実に下手になっている。

 そういう風に見てくると、栄利子と翔子の演じる悲喜劇は、ぼくたち男も含めて、他人事ではすまない。生態系を破壊してでも、目の前の人間と食うか食われるかの死闘を繰りひろげるような社会がやってくるのかもしれない。