綺堂は、イギリス公使館の関係者を通して英語を吸収した影響もあってか、アメリカ人のホーソンを除けば、翻案したのは英国の作家が中心である。実は、松井今朝子も戸板康二『中村雅楽探偵全集3 目黒の狂女』の「解説」で、「小説を書くようになる前は意外に時代小説をほとんど読まず、子どものころ夢中だったアガサ・クリスティやエラリー・クイーンに始まって、もっぱらミステリを好んでいた。P・D・ジェイムズやルース・レンデル、レジナルド・ヒルやコリン・デクスターなど、クイーンを除けばいずれも英国の作家が好きで、やはりコナン・ドイル以来の伝統がものをいうような気がしている」と書いているのだ。
早稲田大学第一文学部と同大学大学院修士課程で歌舞伎を研究、卒業後は松竹に入社し歌舞伎の企画制作に携わり、退社後は武智鉄二に師事して歌舞伎の脚本、演出、評論を手掛けた著者には、歌舞伎に造詣が深く、英国ミステリ好きという二重の意味で綺堂との深い縁を感じずにはいられないのである。
『老いの入舞い 麹町常楽庵 月並の記』は、北町奉行の小田切直年の直々の命により、大奥で高い役職を務め、今は麹町に常楽庵を結び、嫁入り前の娘に行儀作法などを教えている志乃のもとを訪ねるようになった若き同心の間宮仁八郎が、安楽椅子探偵とでもいうべき志乃の推理で難事件を解決する捕物帳である。物語の舞台に綺堂が育った麹町が選ばれたところにも、綺堂への敬意がにじみ出ているように思えてならない。本書『縁は異なもの』は、『老いの入舞い』の続編で、若さゆえに一本気な仁八郎と酸いも甘いも噛み分ける志乃のコンビが、四つの難事件に挑んでいる。
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