アナザーフェイス×警視庁追跡捜査係

堂場瞬一という謎 当代随一の警察小説の旗手が放つ2大シリーズの初コラボ作品。その魅力に迫る特別対談!

仲間を信頼し合う姿をストレートに描きたかった

堂場僕は警察にたいして「硬直した組織」とか「いかにも警官らしい考え方」とか皮肉って書きもしますが、組織は間違っていることもあるけど、意外に個人を守ってくれる部分も大きいでしょう。たまには仲間を信頼し合う姿をストレートに描きたかったんです。

池上仲間への信頼や家族の絆――堂場さんの作品にはそういうまっとうな精神を肯定する力強さがあるんですね。たとえば『第四の壁』で大友は、亡き妻の菜緒をこう語る。「人間は、一人では完結しないんだ。誰かと出会って、初めて完全な生き物になれる。僕にとって、菜緒がそういう相手だった」と語る。こういう言葉を、読者の心にストレートに伝わるように書くのが堂場作品のいいところです。すんなり胸に落ちてくる。そういう人生の肯定が人気の要因の一つだと思う。

堂場いいセリフ書いてるなぁ(笑)。実生活ではなかなか面と向かって堂々たるセリフは吐けないけど、小説という表現形式のなかでは全然不自然じゃないから、そこにてらいはないんです。

池上ところで、堂場さんの作品には、さりげなく料理がいっぱい出てきますね。

堂場やっぱり人間、食べるのが基本ですから。食べ物や食べ方には、服や車以上に、個人の癖や背景が出てくると思う。食べ物にはその人の習慣が染みついているから、人を描写するのに一番手っ取り早いというのもあります。

池上大友家ではあっさり関東風のすき焼きでしたね。池波正太郎の「鬼平犯科帳」シリーズがなんであんなに人気があるかというと、さりげなく出てくる料理の描写なんですね。

堂場池波さんは江戸の風俗を描くのに必要な要素として描いたと思う。僕の小説も三〇年ぐらい経って、平成のこの時代はみんなこんなものを食べていたのかと、記録としても読んでもらえたら嬉しいですね。あと、M・ウォーカーの「警察署長ブルーノ」シリーズが好きなんですよ、やたら料理が出てくるので。

池上自分ではどんな料理をするの?

堂場煮物とか煮込み系が得意で(笑)。学生時代貧乏だったし、自炊しないと食べていけなかったから、時間さえかければだいたいうまくできる料理をよく作ってきましたね。

池上料理のさりげないうんちくが子育ての描写にもリアリティを与えているんですよね。ひとつ聞きたかったのが、大友鉄の初期設定――つまり奥さんが亡くなって子供のために捜査一課を離れるというのは、かなりイレギュラーな設定だと思うんですね。いわゆるマイホームパパ的な刑事は、海外ミステリーでもあまり見かけない。

堂場あれは一つの決断なんです。誰もができるわけじゃないけど、大友は弱さではなく優しさから家庭をとることを選択した。僕はハードなキャラクターを書くことも多いから、こういう社会で普通に通用するキャラクターを作りたかったんです。あと、単純にシングルマザーの話は多いけど、シングルファーザーの小説はあまりないという狙いもありました。ダスティン・ホフマンの『クレイマー、クレイマー』の世界ですよね。あれを日本で刑事がやったらどうなるかと。

堂場瞬一・著

定価:(本体690円+税) 判型:文庫判
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堂場瞬一・著

定価:767円(税込) 判型:文庫判
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