- 2010.09.20
- 書評
投資銀行の裏をかいたアウトサイダーを描く
文:喜文 康隆 (証券記者)
『世紀の空売(からう)り――世界経済の破綻に賭けた男たち』 (マイケル・ルイス 著/東江一紀 訳)
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
二〇〇八年九月のリーマン・ブラザーズの倒産に象徴される、金融市場の大混乱を「百年に一度の危機」と呼んだのは、それまで約二十年にわたって米国の中央銀行であるFRBの議長を務めたアラン・グリーンスパンである。
リーマンショックと呼ばれる、この前後一年の金融市場の大混乱が、歴史に残る金融危機であったことはもはや議論の余地はない。
あれから二年たち、ギリシャの財政危機に端を発したヨーロッパの金融市場の混乱、金融市場と実物経済の連動した世界各国のデフレ状況に、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンは「第三次世界恐慌の始まりではないか」と、懸念を表明している。
あまりに大きすぎる危機や悲劇は当事者たちにリアリティを失わせる。
就任直後にリーマンショックに続く世界経済危機に直面したバラク・オバマ米国大統領、大恐慌のプロを自任していたベン・バーナンキFRB議長――今回の危機に際しての震源地米国の二人の最高司令官もそうであったと思う。
二年たったいま、これから壮大なつけを払わされるかもしれない世界の人々は、リーマンショックと「これから起こるであろう未来」のあいだをリアリティをもって理解することができないでいる。
日本でこの二年間に跋扈(ばっこ)した「市場原理主義批判」や「格差論」さらには「民主党待望論」などは、リアリティの欠如した単なる嫌悪感が生みだしたものである。資本主義はじまって以来の危機に向き合おうとする知識もなければ、気概も欠落している。
『世紀の空売り――世界経済の破綻に賭けた男たち』が絶妙のタイミングで発売された。
これはリーマンショック以降の世界をリアリティをもって理解しようとする人にとって、必読の書である。なぜ必読なのか――それは著者がマイケル・ルイスだからである。
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