- 2015.05.16
- 書評
メディチ家、ブルボン王朝、ナチス・ドイツ……。組織の命運を握った帳簿とは
文:前川 修満 (公認会計士・税理士)
『帳簿の世界史』 (ジェイコブ・ソール 著/村井章子 訳)
ジャンル :
#ノンフィクション
商売人は帳簿を軽視してはならない。帳簿を作って、これを活用したものは富み栄え、疎かにした者は滅びる。これは商売の鉄則である。
帳簿をつけてお金の管理をすると「貨殖の才」に磨きがかかる。本書は、これを実証するかのように、たくさんの歴史上の人物を登場させ、商家や王朝の盛衰を語っている。
一例を挙げれば、メディチ家を興隆させたコジモ・デ・メディチは、帳簿を己の商業活動における羅針盤として活用し、これによって商才と貨殖の才を向上させ、ついには恐るべき大富豪になった。
ところが、彼の子孫たちは、親とちがって会計実務を蔑み、帳簿が示す会計データを省みず、上流社会の嗜みばかりにエネルギーと金を費やし、ついにはメディチ家を衰亡させてしまった。
昔から「『売家』と唐様で書く三代目」といわれるが、そのもっとも大きなポイントは帳簿に対する、初代と三代目の取り組み方の違いである。「帳簿は商人の命」というシンプルな教訓が子孫に受け継がれず、初代が築いた社会的地位と莫大な財産のみが子孫に受け継がれてしまうところに、子孫たちが辿る悲劇の原因がある。
本書は、実例を用いて、これを余すところなく書いている。
もちろん、本書が著しているのは、商人だけに対する教訓ではない。企業経営者にも、ビジネスマンにも、主婦にも……。つまり、本書は、すべての生活者に当てはまる貴重な教訓に満ちているのだ。
なかでも、国政を司る政治家や官僚に向けての貴重な教訓が記されていることは刮目に値する。それが本書の第6章と第9章におけるブルボン王朝の記述である。
ルイ14世の時代にフランスの財務総監となったコルベールは、実業家の家に生まれ、会計の実務を通じて経営というものを身につけ、会計記録の重要性を十分に認識していた。
最初、コルベールは、マザラン枢機卿の財務顧問に起用されるが、そこで持ち前の能力を発揮する。彼は、マザラン家にあった膨大な書類や契約書と格闘し、請求するのを忘れていた収入と回収するのを忘れていた債権を洗い出した。その結果、800万リーブルだったマザランの所持金は、その3年後には3,500万リーブルにまで膨れ上がった。
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