- 2016.12.13
- 書評
人生は冒険だ。たった一度の人生を「出る杭」として生きてみよう。
文:辻野 晃一郎
『「出る杭」は伸ばせ! なぜ日本からグーグルは生まれないのか?』 (辻野晃一郎 著)
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
ソニーのカンパニープレジデント、グーグル日本法人の社長を歴任した後、自ら起業した辻野晃一郎氏による週刊文春の人気ビジネス連載が、大幅に加筆修正のうえ書籍化された。これからのビジネスで大事なのは「出る杭」であることだ、と辻野氏はいう。なぜ今、「出る杭」なのか?
最近、政府の旗振りや電通の事件もあって、「働き方改革」に対する機運が盛り上がりつつある。本来、「働き方」は「生き方」だ。政府の旗振りや事件で初めて本気になるのではなく、会社も個人も、もっと早くから目覚めねばならなかったテーマでもある。長時間労働やサービス残業など、日本企業の、特にホワイトカラーの生産性の低さについては、長いこと指摘され続けてきた。今こそ、会社等の組織は「個」に犠牲を強いるのではなく、「個」を尊重した働き方を本気で確立せねばならない。一方で、働く「個」も意識改革や行動変革に目覚める必要がある。
私は、新卒で入社し、22年勤めたソニーを退社した翌年、2007年4月からグーグルに入った。もともとソニーはキャラの立った「個」が活躍する会社だった。ニューズ・ワークステーションやアイボ等のロボットを立ち上げた天外伺朗氏や、ゲームビジネスを立ち上げた久夛良木健氏などの有名人も多く輩出している。グーグルではさらに「個」の活躍が際立っていた。「クラウド時代の個を尊重した働き方」を作り上げており、私自身その斬新な働き方には大きな影響を受けた。
グーグルには、「グーグリー」や「グーグリーネス」という言葉があった。「グーグルっぽい」とか「グーグルらしさ」という意味だ。いつも明るく元気で、地頭が良く、正義感に溢れ、行動力があって、コミュニケーションが上手く、頼りになる存在、とでもいうイメージだろうか。自発的に考え、行動する「セルフスターター」が尊重され、社員には、使命感が高くアジェンダが明確な人が多かった。業務命令に従って受身で仕事をする、というスタイルは軽蔑され、「命令されて仕事をしたければ海兵隊にでも行け」と語る幹部もいた。上司の指示に従って仕事をする場合は、自分が納得するまで上司と徹底的にやり合うのがよしとされた。
インターネットやクラウドの人類への最大の貢献は、「個」をさまざまな制約から解放し、「個」の力を格段に増幅したことだ。信念や行動力のある人にとっては、自分が理不尽と思うことに我慢して従ったりマジョリティに同調したりせずとも、もっと思うように生きる新たな手段が与えられたともいえるだろう。
グーグルでは、「個」を尊重したフラットな環境の中で、権限委譲と情報の共有化が進んでおり、クラウドのリアルタイム性をフルに活かしたスピーディーなコミュニケーション、意思決定、アクションが日々猛烈な勢いで繰り返されている。1998年の創業以来、グーグルが広告ビジネスの世界を根底から刷新するだけでなく、最近はAIなどでも世界を席巻し続けているのは、「個」を尊重したスピーディーな働き方を築き上げているからだ。