西 難しくない?
光浦 まあね。
西 例えば好みじゃない俳優さんとか出てきて、ブスキャラで「素敵~」って言わなあかんやん。あれ、しんどくない? これ、あんまり言ったらあかんやろけど(笑)。
光浦 もうここ十年そういう仕事来なくなった。私がたぶん一番最初に悪態ついたからじゃないかな。それを我慢してやるのが女芸人なんだけど、あまりにちょっと態度がひどい人がいたもんで、スタッフに口に出して文句言ったんだよね。それ以来ピタッと仕事が減っちゃった。「ああいうのに文句言うぜ、あの女」って。でも、それで「文句言うぜ」で解釈されるならばそれまでだし、それでいいやと思って。
西 そうやな。
光浦 世直しだと思ってやったら、それ以降続く人が私を悪い見本として見たらしくて、みんな余計文句言わなくなったっていう。
西 ノリを分かってくれる優しい俳優さんやったらいいけどな。
光浦 そうそうそう。
西 それやったらこっちも「頑張るで」って感じやけどな。
光浦 あと嫌がらない人も困るんだよ。そこ嫌がって成立するのに。
西 なるほど! 「僕はかわいいと思います」だったらあかんねんな。
光浦 そうそう。「あー、全然面白くなくなるんだけど」っていうのもあるし。
西 それで言うと西村賢太さんが素晴らしかったっておっしゃってたよね?
光浦 ちゃんとやってくれるんで、すごい助かる。
西 西村賢太さんとお会いする前に光浦さんに「どんな人?」って聞いたら「ちゃんとブスって言ってくれるの。すごい分かって『ブスが嫌い』って言ってくれるんだよね」って。普通の女性からしたら「ちゃんとブスって言ってくれる」って感覚はないじゃない? やっぱりかっこええな、ほんまプロやなって思って。
光浦 西村賢太さんの対応が一番いいよね。女の人のことは全般ちゃんと好きなんだよ。でもみんなをかわいいとは言わずに、「いや、それはブスと美人並べたら美人でしょ」って言う。「ブスだから嫌いなんですか?」って訊くと「ブスのくせにプライド高いから嫌いだよ」と。それも表で言ってくれるから、すぐこっちも「おい、てめえこの野郎」とケンカができる。素晴らしいでしょ。センスがいい。
西 プロフェッショナルってそれぞれのプロフェッショナルがあるけど、やっぱり芸人さんはほんまに尊敬する。テレビって、市川雷蔵じゃないけど、ザ・エンターテイナーみたいな、舞台と現実が全然違う人がトップに行くと思ってたから、こんなに優しくて普通のまんまでトップに行く人がおるんやって。すごく稀有な人やなと思った。
光浦 でも、今はみんな舞台も現実も一緒の人が多い気がする。悪い人は少ないかも。
女は木の実を拾って取り分ける
西 女性芸人さんがこんな仲良くなったんって光浦さんからじゃない?
光浦 そうなんですよ。
西 そういうの昔はなかったんだ?
光浦 十年前くらいは女芸人が同じ番組に何人も出れることはなかったのよ。一枠しかなくて。だから、女芸人はどこ行っても男芸人の中の添え物で、相談相手もいない。男の笑いで、男のルールの中で戦えるという実力も、悔しいけどなかった。戦った人たちも数々おりますが、やっぱりなんかちょっと蔑ろにされる。男同士の付き合いで「風俗行くぞ」みたいなノリだったら絶対ついて行っちゃいけないし、「ねえちゃんの居るとこ行こうよ」ってなったらやっぱり一歩下がらなきゃいけない。そんな相談相手がいないポジションでやってて、誰か同じ傷を持った人とお話ししたいなって思ってたときに、何か番組の企画で初めて女芸人が三組ぐらい一緒になったの。そんなの初めてなんでみんなが最初は牽制球投げ合って楽屋で挨拶もしなかった。うちらは外部の事務所だけど、吉本に所属している人は吉本の舞台で繋がってるから、先輩後輩でしゃべってるの。でもやっていくうちにどんどん仲良くなって、こんなに同じ気持ちの人がいるんだと思って。その日にみんなで飲みに行って、二軒目行こう、三軒目行こうってすごく楽しかった。だから相談相手もいなくてやってる人に、何とかこんな素敵な現場があるよって教えなきゃと思ったの。そこはやっぱり学級委員魂がうずいたんだよね。私は意外と女芸人の連絡先だけは知ってたんで、その全員に電話して、「女芸人さん同士でしゃべるとすごく気持ちが楽になるよ」って。
西 うん。
光浦 そうしたら、みんなが弱ってたみたいで、最初の飲み会で二十人ぐらい、東京じゅうの女芸人が集まった。
西 話し尽きひんのやない?
光浦 うん。みんなが初めて「こんなに痛みが分かる人がいるんだ」なんて言ってるうちに、時代が変わっていった。女芸人会とか勝手にタイトル付けられたり、いい噂も出れば、誰かが仕切ってるだの誰かが派閥作ってるだの悪い噂も出て、そんなことなんか何もしてないのに。ただ最初にみんなで傷をなめ合う場所があるよって言っただけ。
西 昔『夢で逢えたら』で、野沢直子さんと清水ミチコさんが出てはったぐらいからプツッと途切れてて、急に今、みたいな感覚があるなぁ。
光浦 今や、女芸人の企画ばっかりなんで勝手にお友達になるけど。最初の最初は連絡の取り方も、知り合いになるきっかけも本当になかったんだよ。あと、一つしか女芸人の枠がないから、その枠を誰が取るのかが問題になる。でも、やっぱり女の人はその一枠を是が非でも取ろう、相手を蹴落とそうということではなかった。女の人って、木の実拾って、みんなで地べたで取り分ける生き物なのかなって思う。
西 そうやな。「これ食べれんで」「それやめとき」みたいな。
光浦 そんなにギスギスしない。
言う時はボロクソに言うから安心できる
西 女芸人会を誰か仕切ってるって書いてるのは、絶対男性やろうな。女性への悪意があるよね。
光浦 そう。嫉妬しあって、もめててほしい、みたいな。
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