2015.01.07 書評

創意工夫と独学精神が叶えた少年の夢

文: 田口 俊樹 (翻訳家)

『風をつかまえた少年 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった』 (ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー 著/田口俊樹 訳)

 マラウイ。これが国の名前で、世界のどのあたりにあるのか。さて、どれぐらいの読者諸賢がご存知だろうか。恥ずかしながら地理音痴の訳者は、白状すると、本書に接するまで、アフリカのどこかの国? ひょっとしたら中南米? ぐらいの認識しかなかった。

 インターネットという便利なものを使って調べてみると――マラウイ共和国。アフリカ南東部、アフリカ大地溝帯に位置する内陸国で、旧称、イギリス保護領ニヤサランド。一九六四年に独立。面積は十一・八万平方キロ。東部にマラウイ湖を擁し、国土の大半が高地にある。人口は約千六百万人(二〇一三年)。通貨はマラウイ・クワチャ(一クワチャは二〇一四年の為替レートで四円弱といったところか)。首都はリロングウェ。公用語はチェワ語と英語。主要産業は農業。世界最貧国のひとつ――といったことがわかる。

 本書の前半では、著者、ウィリアム・カムクワンバ少年の眼を通して、そんなマラウイ共和国の中部の市、カスングにほど近いマスィタラ村の人々の暮らしぶりが描かれる。それはもちろん、「先進国」に住むわれわれ日本人のそれとはかけ離れたものだ。また、犬には名前をつけても猫には名前をつけなかったり、自分の子供に不吉な名をつけたりといったマラウイ特有の風習には、へえっと驚かされたりもする。

 しかし、訳者にはそういったこと以上に思いがけなかったことがある。カムクワンバ少年の描く彼の日常が不思議と懐かしかったのだ。訳者も戦後生まれなので、飢餓を経験したことはない。おやつに燻製ネズミを食べたことも羽アリを炒めたこともない。子供の頃に魔術師に呪いをかけられたこともなければ(たぶん)、ライオンに食い殺された先祖もいない(たぶん)。なのに、ウィリアム少年の少年時代にはなんとも言われぬ郷愁を覚えた。ウィリアム少年同様、トランジスタラジオを分解してみたり、身のまわりのものを利用しておもちゃの鉄砲をつくったりした経験は訳者にもある。それは本書でも語られているとおり、世界のどこであっても子供なら、あるいは男子なら、誰でも一度は経験することで、懐かしさはそのせいかもしれない。

 が、どうもそれだけとは思えないのだ。ウィリアム少年の親や隣人や友人との関係から、彼の日々の思いまで訳者には懐かしかった。アフリカには一度行ったことがあるだけだが、実はその折りにも似たような感慨を覚えた。これは単に個人的なものなのか、世代的なものなのか。アフリカの大地溝帯はヒト出現の地、人類の故郷とされる。ひょっとしてこの懐かしさはヒトのDNAと関係が……などとふと思ったのはさすがに妄想が過ぎるにしろ、そのあたり、本書の本筋からは離れるかもしれないが、読者諸氏のご感想やいかに。

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風をつかまえた少年 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった
ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー・著/田口俊樹・訳

定価:本体950円+税 発売日:2014年12月04日

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