解説を仰せつかりました、柳家小せんと申します。鈴々舎馬風門下、一般社団法人落語協会所属、真打。入門から十八年目になる、この業界内ではまだまだ若手、下っ端の噺家でございます。寄席を舞台にしたシリーズの第一作ということで、芸人という立場からお話させていただきます。
落語会や演芸会を【○○寄席】と銘打つことも多く、当然それも間違いではないのですけれど、我々がただ「寄席」と言うといわゆる定席、毎日落語を中心とした興行を打っている席、つまり劇場のことを指します。どんなところかは……まあ、ご存知ない方でも本作中で自然と説明されておりますので、本編を読んでいただければお分かりいただけるかと。
団体名や人物名はフィクションで、本作の舞台《神楽坂倶楽部》と、著者の別シリーズ『神田紅梅亭寄席物帳』に出てくる《神田紅梅亭》は現存しませんが、あとはだいたい現実に即したものとなっています。登場人物は申し上げたとおりフィクションでも、故人のエピソードなどでは、実際に語り継がれている逸話が実名で入っていたりもしますのでね、そのあたりも含めて、なんとなくでも「そんなものか」と思っていただければ、生半可な入門書などを読むよりは寄席や芸人の実態をわかってもらえたことになるのではないでしょうか。
落語家は、この寄席で育ちます。師匠のもとに入門して、一定期間見習いとして最低限の作法やルールを学ぶと、前座として寄席に行き楽屋働きをするようになります。開口一番として高座に上がるのはもちろんですが、出演する師匠方にお茶をいれる、着付けにつく、着物を畳む、下足を揃える、高座の切れ目には座布団を返したりメクリという演者の名前を書いた札を出したり(高座返し、といいます)、太鼓を叩いたり。立て前座になると出番順や時間調整を師匠方にお願いして進行を取り仕切ったり、裏方としてのありとあらゆることをやるのです。
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